第二十三話 空には鳥と竜が舞う 前編


「…厄介なことになってやがる。」

双眼鏡を片手に見ていたグリムが独り言のように呟く。
隣で仮眠をとっていたハンスが慌てて身体を起こした。

「ご、ごめんなさい、何かありましたか?!!」
「あん?」

慌てて起きてきたハンスにグリムは双眼鏡から目を離してハンスを凝視した。
二人できょとんと見つめ合って数秒、グリムは噴出しながら答えた。

「あっははは、悪い悪い独り言だ、気にするな。」
「はぁ…そうでしたか。」

一気に力が抜け、ふぅ…と肩を落とすハンス。
だがグリムは「ただな…」と言葉を続けた。

「さっき見つけた教団の船だが…どうやら魔物に襲われてるみたいだな。」
「船って…あの精霊がいる空飛ぶ船の事ですか?」

ここへ来るまでにグリムは大きな空飛ぶ船が峡谷へと入っていくのを見つけていた。
最初は特に気にした様子も無くあんなものもあるのかという程度だったがアレスの中にいるイグニスのフランが言った言葉で三人の行き先は変わった。

「あの船に同じ精霊の仲間を感じる…。」

三人は追いかける為の準備をしているところだった。

「ハーピーやら何やらに取り付かれちまってるな、ありゃそう長くないぜ。」
「だったら早く追いかけないと…アレスさん、まだなんですかね?」

ハンスは振り返って遠くのほうにある岩場を見つめた。
…その近くから複数の独特の女性の媚声が聞こえてきた。

「さぁな?…流石のアレスも"三匹"相手じゃ手こずるだろうしな。」
「それもあの『ワイバーン』ですよ、何とか僕たちも乗せてもらうようにするとはいえ、アレスさんも無茶しますよ…ほんとに。」

ハンスはため息をつき、呆れながらもアレスを心配した。

その頃、アレスは…。

「あぁん、もっとぉ!!もっと突いてぇっ、ひゃぁ、子宮ゴリゴリするのぉ…!」
「だめぇ…もうむりぃ…お腹ん中タプタプで孕んじゃうよぉ。」
「はふぅ…交尾って…こんなになっちゃうんだ…もう立てないや…。」

(後で妻に一人選ぶ時に喧嘩にならないだろうか…?)

…二人とは別なことで心配していた。


……。

『セイントバード周辺、上空』

「いけいけー、交尾の時みたいに丸裸にしちゃえー!!」
「「「おぉー!!」」」

モカが呼び寄せたハーピーの群生、さらにブラックハーピーの群生も加わり、もはや空を覆いつくせるほどにまで集まったハーピー種。
モカの号令で彼女達は一気に船を取り囲み、船内へと取り付いていった。

「くそ、化け物共めっ!!」

セイントバードに取り付けられた砲台で砲撃手の男は懸命にハーピーを狙い撃った。
…しかし、空中戦を予期していなかった大雑把な射撃は彼女達にひらりと簡単にかわされてしまう。

「くそ、ちょこまかと−」
「あ、好みのオスはっけーん!!」

砲撃手の男が次弾を装てんしようとしていると不意に頭上からハーピーが降りてきて彼の肩を足で掴みあげた。

「な、何をする、放せっ!?」
「やったっ、お持ち帰り〜、ついに念願の素敵な旦那様ゲットー!!」
「ついでにこんなダサい飾りはこうしてやるー!!」

ハーピーは男を足で引っ掴んだまま巣へと持ち帰り、代わりに空っぽになった砲座に別のハーピーが足で掴んでいた岩石を落として砲台を破壊した。

「よっしゃー、次だ次ー!!」
「おぉー!!」

ハーピー達は船に取り付けられた外装や砲台を彼女達は魔法やら落石やらで一つ一つ潰していく。
それはまるで肉食獣が群れで大きな草食獣を襲う光景だった。

…。

『セイントバード船内にて』

「こちら左舷砲撃手、全砲門大破、修理が間に合いません!!」
「こちら右舷砲撃手だっ、脱落者多数、誰でもいいから増援を頼む!!」
「こちら後部デッキ、魔物共が船内に浸入っ、救援を!!」

数々の伝令が飛び交い、船内はパニックに陥っていた。
操舵室では船長と思しき男が指示を飛ばし、窓を見ては空を飛び交うハーピー達を見て舌打ちをした。

「まったく…セイントバードよ、こんなに嫁候補がいては目移りしてしまうな?」

この状況に皮肉を漏らしつつもその船長は舵を取る手を緩めることはなかった。
変わりに不敵に笑って見せて船内に響き渡るように叫んだ。

「各砲撃手、砲台は捨て置いて白兵戦に切り替えろっ、次の中継地点まで行ければ俺たちの勝ちなんだ、持久戦に持ち込んで切り抜けろ!!」
「「「了解!!」」」
「いいか、絶対に諦めるな…絶対に−」

言葉を続けようとすると、その船長の下へ割り込むように伝令が走りこんできた。

「船長っ、あ、新たな敵を観測…!!」
「ぁあ?!…何処からだ!?」
「それが…。」

その伝令は肩で息をし、絶え絶えになりながらも辛うじて顔を上げ、その先を指差しながら答えた。

「正面…前方数キロ先で、敵の精鋭と思われる部隊が向
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