第二十二話 経過…そして新たな騒動


「で、何に見える?」

グリムは粉々に砕け散った残骸の中から一つ取り上げてハンスに見せた。
ハンスはうーん、と唸りながらその残骸を手にとって良く見てみる。

「どう見ても唯の鉄の破片にしか見えませんね…魔石などならともかく。」
「…だよな、稼動部分の歯車や機関部分もどう見たってあれほど意思を持って器用に動くとは思えん、中に人でも入ってりゃ説明がつくんだがなぁ。」
「二人とも、何か分かりそうか?」

二人で調べているところに後ろからアレスが声を掛けた。
グリムはアレスに首と手を振ってさっぱりとジェスチャーする。

「なんにもわかりゃしねぇ…お手上げだ。」
「あの巨人は間違いなく意思を持ってここを襲撃に来ていました、ですからその命令を伝達する…あるいは意思を司る部分が何処かにあると思ったんですが…。」
「戦っていて分かったんだが、動きは殆ど人間のそれだった…ダメージを受ければ苦しんでいたし防御もしていた、単に動いていたというわけじゃない。」
「いったいなんだったのでしょうか…少なくとも彼女達とは敵対する勢力、大方教団辺りかと思うのですが。」
「あるいはもっと別の…ま、敵であることには変わりはねぇさ…で、アレス。」
「なんだ?」

グリムは話を切ってアレスの右手の方を指差して言った。

「それ、なんとかなんねぇのか?」
「…僕も気になって仕方が無いんです。」

ハンスも同様にアレスの右手、正確には鎧の『獅子』の顔がついた篭手を指した。

「……♪」スリスリ

そこには獅子の顔に満面の笑顔で頬ずりするサリアがいた。

「あぁ、リコから聞いたんだが彼女の癖というか決まりみたいなものらしい…、リコを送った後にどうしても堪能させて欲しいと言われてな。」
「…♪」
「まぁ…経緯を知れば分からなくもないが…だったら外して渡してやりゃいいじゃねぇか?」
「それが…どうしてか分からないんだがこの鎧、身体から外れないんだ…まるで離れたくないみたいに。」
「なんですかそれ…一種の呪いですか?」
「分からない、一応戦闘時以外は背中に収納できるみたいだから邪魔にはならないが…。」
「案外、元が魔物だから好かれたのかもなアレス?」
「アレスさんの場合、冗談では言い切れないところもありますけどね。」
「…せめて人型で出てこればな。」

三人は冗談を言いながら談笑しあった。


−−−−−−−。

時は遡り、アレスが巨人を倒した直後、洞窟より少し離れた丘にて。

「おい、これは一体どういうことだ?!」
「……ふむ。」

一部始終を見ていた軍服の男は顔を真っ赤にさせ怒鳴り散らしていた。
隣で怒鳴られている白衣の男はさも気にした様子も無くしきりに何かを呟きながらメモしていた。

「あんな奴がいただなんて聞いていないぞ、我が軍の主力であるタイタンを…しかも人の身で倒すなど奴は一体何者なのだ?!」
「私も聞かされてはおりませんでしたよ、もしかすれば勇者様が立案したのも奴のせいなのかもしれませんね、ははは…これは驚きましたな。」
「何を暢気にしておる、あんな脅威を野放しになど出来るか…城に戻りすぐに対策を練らなければ、博士…その間に貴様にはタイタンに変わる新たな兵器を開発してもらうぞ?」
「勿論ですよ…お任せを。」

一頻り言い終わると軍服の男はいそいそとその場を後にする。

「…随分と楽しそうですね。」

続こうとした白衣の男に後ろで佇んでいたローブの女が呟いた。
男は特に隠そうともせず半ば笑いながら答える。

「当然だろ、戦争というものはお互いが強ければ強いほど長続きする、その間ずっと国は兵器の研究に金を掛ける、私は好きなだけ研究と開発を続けられるんだ…これほどの旨みは無いよ。」
「その研究のためには如何なる犠牲も問わないと?」
「タイタンは鉄や歯車だけではつくれないからねぇ…それに犠牲とは人聞きが悪い、私はチャンスを与えているんだよ…"死んだ後"も国の為に戦士として戦えるんだからねぇ…。」
「…。」
「ま、それもこのままじゃ効率も悪いからね…別の動力源も探すとしよう、さぁ…楽しくなってきたぞ…。」

白衣の男は不気味な笑みを零しながら軍服の歩いていった方向へ消えていく。
最後に残ったローブの女はふぅっ…とため息をつくと二人についていった。


−−−−−−−。

場所は変わり、今度は魔界…リリム城のエレンの部屋にて。

「うぅ…ぐすっ…。」

ハートの模様が描かれた壁紙、高貴なイメージのシャンデリア、一人が寝るには大きすぎるベッド。
全てがゴシック調の黒とピンクに装飾され、魔王の娘達との総称とも言えるリリムに相応しいほどの高品質な部屋。
そんな部屋のベッドでエレンはクッションを抱いて独り泣いていた。

『俺はお前を"女"として見れないんだ』

エレンはその赤い目を
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