第二十一話 アレス専用武器


「しっかし驚いたわよ、まさかマイさんの知り合いが尋ねて来るなんて。」

二人に紅茶を運びながらドワーフの『リコ』はそう言った。

「はい、お待たせ。」
「ありがとうございます。」
「すまねぇな、俺たちまでご馳走になっちまって。」
「いいよいいよ、マイさんにはいつもお世話になってるし、師匠との話が終わるまでゆっくりしていってよ。」

円形のテーブルにそっと置かれた紅茶を二人…グリムとハンスは手に取り、一口飲んだ。
淹れたての紅茶のレモンの風味と程よい甘さで二人はほっと一息つくことが出来た。
そして改めて、二人は周りを見渡す。

「それにしても、すごい量の武具ですね…?」

ハンスとグリムは初めこの洞窟を訪れた時からその異様な光景に圧倒されていた。
剣や槍、斧、鉄槌、弓矢、刀から鎖鎌まで、防具に至っては鎧、兜、盾、篭手、鎖帷子、その他沢山の武具が洞窟の岩肌一面に掛けられている。

…ここがかの有名な「サイクロプスの工房」である。

「まぁね、殆ど昔師匠が作った物だよ、私も真似しながら作ってるんだけど全然上手くいかなくって…ここでずっと修行させてもらってるんだ。」
「はぁ〜、これだけの量を一人でか…しかも一つ一つが恐ろしく精巧に出来てやがる、どれも手を抜いている箇所がひとつもねぇ。」
「彼女達の武器や防具は一級品で扱われますからね、中でも最高傑作のものは伝説の武具として奉られることもあるそうです。」
「魔物が作ったものを神様に捧げるのか?…罰当たりな気がするが。」
「戦利品扱いなのよきっと。…それよりあんたたちと一緒に来たアレスって人なんだけど…。」

リコはグリムとハンスと一緒に尋ねてきた男、アレスが入っていった部屋を向きながらいった。
部屋の扉には『サリアの部屋』と札が掛けられていた。

「確か、彼は自分専用の武器が欲しいって事で師匠に会いに来たのよね…貴方たちも?」
「いんや、俺たちは付き添いさ…そういえば入ってから結構時間が経っているな。」
「いくらアレスさんだからって彼女達相手に強引な取引はしないですよ。」
「…いや、師匠はちょっと癖のある人だからそれで長くなってるのかもね?」
「癖…?」
「会えば分かるわよ、でも師匠…大丈夫かな?」
「大丈夫さ、アレスはそんな野蛮な奴じゃないし…あんたたちなら尚更だ。」
「いや、そうじゃなくて…師匠…ちょっといろいろあってさ、スランプ気味なんだ。」
「スランプ?…何かあったのか?」
「ちょっと複雑でね…だからしばらく休止してたんだけど、久しぶりの馴染みの人の紹介だし、師匠も頑張ってみるって。」
「ふーん、いろいろあるんだな…。」

グリムはそのサリアの部屋へと続く扉を見つめながらつぶやいた。

−−−−−−−−−−−−−−。

「…。」
「…。」

ぬいぐるみやメルヘンなベッド、工房には似つかわしくないほど可愛らしい部屋へと案内された。
俺は今、このサイクロプスの工房の主、サイクロプスの『サリア』と向かい合っている。
無論、ここに来た理由は俺専用の武器を作ってもらうためだ。
師匠にも言われたがこの先丸腰だといろいろと大変だろうと言う事で特別に紹介してもらった、紹介してもらったのはいいんだが…。

「…。」
「…。」
「…ふむ。」
「……。」

…どうやらタイミングが悪かったようだ。
彼女が言うには、自信を無くしたらしい。

「…どうしてだ、これだけすごい武器や防具を作っているのだろう?…防具に至っては俺は一度命を救われてる。」
「…?」
「昔の話だよ…それもあって腕前は俺は評価している、だから武器もお前に作って欲しいんだ。」
「……。」

必死に語りかけるも彼女は俯いたままだった。
あの勇者の攻撃から救ってくれた時から俺は彼女に興味があった。
武器を作る作らないは別に、一目だけでも会いたかったのが本心だ。
その彼女がここまで落ち込んでいるのは、少し気がかりだ。

「そこまで落ち込むなんて一体何があったんだ?…え、失敗?…そりゃあ成功もあれば失敗もあるだろ、それぐらい―」
「……。」
「…母親から継がれた課題?」
「…。」
「そんなに昔なのか?…で、それを失敗したと…え?…失敗じゃなくて別のものが出来た?」
「………。」

…そう言うと彼女は益々落ち込んでしまった。
どうやら、余程ショックな出来事だったらしい。

「そんなに悲観するなよ、そういう時だってあるさ?…それでも俺はお前に作って欲しいんだ、俺専用の武器を。」
「…。」
「そう、殺すのが目的じゃなく多種多様に動けるような武器がいいな…そういう目的の旅をしているっていうのはさっき説明したとおりだ。」
「……?」
「…お前じゃなきゃ駄目だ、頼む。」
「…。」

そして悩んだ末、サリアは−。



−−−−−−−−−−−。



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