「ダメだよハンスお兄ちゃんっ!!」
トーマの制止を振り切るようにハンスはおぼつかない足取りで走っていた。
「このまま寝てなんかいられませんよ…アレスさんの援護に行かないと…!!」
「ハンスお兄ちゃんの怪我だってまだちゃんと治ってないんだよ?本当に死んじゃうよ!!」
「それでも…僕は行かないと、アレスさんは無茶をする人ですからね…!」
そう言って内に先ほどカシムと戦っていた場所までハンスはたどり着いた。
着いたとき、ハンスは驚いたように目を見開いた。
「こ、これは…一体どうしたんだ?」
ハンスの目の前にはそこら中に煙が上がり、ここからでも少し熱気を感じるほどに焼け野原となった広場があった。
そして当のカシムの姿はなく、代わりに誰かを囲うようにして人だかりが出来ていた。
ハンスは急いでその人だかりへと向かう。
「一体…何があったんですか?」
「おぉ、あんたか…あんたの相方が見事カシムに勝ったんだよ。」
「えぇ?!」
驚いて人だかりを覗くとその中心でアレスが寝かされていた。
見るとサキュバスを中心とした魔物達がアレスを取り囲むようにして治癒魔法をかけていた。
優しい光とともにアレスの身体から徐々に傷がなくなっていく。
「それで…カシムはどうなったんですか?」
「あっちでのびてるよ、縛るのも可哀想なぐらいな有様でな。」
「何言ってんだよ、俺ならあと百発はぶちのめしてるぜ?」
「ははは、違いない。」
先ほどまでの表情とは裏腹にみんなの顔には笑顔が戻っていた。
ようやくこの街は本来の姿を取り戻せるのだろうとハンスは安堵した。
笑い合う中、アレスに掛けていた魔法の光が治まった。
「お、どうやら終わったみてぇだな。」
皆が覗き込むとアレスの身体のほとんどの傷はなくなっていた。
しかし、ところどころ火傷が残り、特に顔の部分は目立つほどに皮膚がただれていた。
それとともに、魔法を掛けていた彼女たちの表情も暗かった。
「あ、あの…アレスさんは?」
「…。」
重苦しい空気が流れる中、代表して一人のサキュバスが口を開いた。
「傷のほとんどを治すことが出来たわ、多少残ってしまってるけど最初の時に比べたらベストな方ね…ただ…。」
「ただ…?」
「普通ならすぐに意識が戻るハズなんだけど…これだけやられたら精神面の方も心配だわ…私たちの力は体の傷は直せても心までは直せないの…このまま意識が戻らなかったら…後遺症が残ると考えたほうがいいわね。」
「そ、そんな…。」
サキュバスの重い言葉に誰もが口をつぐんだ。
彼女自身も無力な自分を許せないのか下を向いて下唇を噛み締めた。
トーマに関しては心配そうにアレスを見つめている。
「…とにかく、今はアレスさんを移動させましょう…それから考えます。」
「そ、そうだな、みんな…旦那を運ぶぞ?」
無言で頷いて数人がアレスを運ぼうと手を伸ばした。
同じようにハンスもアレスの体に触れた時だった。
「あぁ…頼むぜ。」
「「「?!」」」
その場にいた者たち全員が飛び上がるほどに驚いた。
なぜなら先程まで重苦しい雰囲気を出した原因のアレスがハンスの手を掴んだからである。
これにはハンス自身も驚いたがため息をつきながらアレスを抱き起こした。
「もう…肝を冷やしましたよ、アレスさんは本当に無茶が好きな人ですね?」
「悪いな、そういう性格なんだよ…でもおかげで上手くいった。」
「あ、あんた…本当に大丈夫なのか?」
「あぁ、あんたたちの妻のおかげだがな。」
「私たちもあんな状態だったからもう助からないと思ってたけど…ほんとに人間なの?」
「人間じゃなきゃできないこともあるさ…。」
アレスは皆に支えられながら街の方へと戻った。
…。
そしてとある民家の中で…。
アレスはベッドに腰掛けながら女将さん特製の紅茶を飲んで一息ついていた。
隣にはハンスもいて周りには彼らにお礼がしたいと何人かの町の人たちが集まっていた。
窓の外も興味津々といった感じで人や魔物が集まり、ちょっとした有名人みたいな扱いを二人は受けていた。
「いやぁ…ほんとにあんたたちのおかげだよ、なんとお礼を言えばいいか。」
「気にするな、殆ど俺のお節介でやったことだからな。」
「お節介で火だるまになる人なんて聞いたことないわよ…、でも本当にありがとうね。」
「いえ、僕なんかすぐやられちゃって…面目ないです。」
「仕方ないさ、相手が悪すぎたんだ…それでも向かっていったお前の勇気は見事だったぞハンス?」
「…そう言って貰えると助かります。」
「何はともあれみんな助かったんだ、それでいいじゃない?」
「今日は夜通し宴だ、あんたたちが今回の主役なんだからお礼させてくれよ?」
「一応…俺は怪我人なんだがな…。」
…あっはっはっはっはっは!!!
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