「・・・動くなよ。」
目の前の男はそう言って見たこともない武器のような物をこちらに構えていた。
・・・さっきの破裂音とハンスを襲った現象は恐らく奴の仕業だろう、この状況じゃそうとしか思えない。
倒れたハンスに心配そうにマーシャが駆け寄った。
「ハンス、大丈夫なの?!」
「僕は大丈夫・・・でもなんなんですか一体・・・僕達は何も―」
「ハンスッ、マーシャ!!いいから言うとおりにしておけっ。」
「そいつはいい、こんなことしといてなんだが・・・お前長生きできるぜ?」
男はよっぽど自信があるのか、そういう性格なのか軽口を叩いた。
実際の所・・・奴の得体が知れなさ過ぎる。
見慣れない素材で出来た妙にごつごつした服、そして何より奴が持っている武器だ。
最近出回っている『鉄砲』というものに似てなくもないが・・・、何より俺の勘が囁いてる。
”アレ”は・・・この世界に在るべきじゃない物だ。
俺の言葉にハンスは慌てて言い返した。
「で、でも・・・このままじゃ、二人が・・・。」
「アレス、私はいつでも加勢できるぞ?」
「いや、もしも奴の狙いが魔物ならとっくにやられてたはずだ、それにもかかわらず一番遠くにいたハンスを威嚇した、つまりあんたの狙いは彼女達じゃない・・・そうだろ?」
「見事な推理だな、賞品があったら渡してるところだぜ。」
「なら、二人とも離れていろ・・・こっからは俺達二人で話す。」
「だ、だがしかし・・・。」
「アンヌさん・・・マーシャをよろしくお願いします。」
「ハンス・・・。」
「アンヌ、早く行けっ!!」
「くっ・・・。」
アンヌは納得しないという面持ちでマーシャを連れて離れていった。
後には俺とハンス、そして謎の男が立っていた。
「初めに言っておくが金なら持ってないぞ?」
「初めに言ってくれてありがとうよっ、別に食うもんには困ってねぇ。」
「じゃあ、どうして僕達を襲うんですか?!」
「危害を加えるつもりもねぇ、ただ聞きてぇ事があるだけだ・・・だが返答次第じゃ覚悟しろよ。」
「聞きたい事?」
「お前ら、さっきの魔物達とはどういう関係だ?」
さっきの魔物たち、それは言わずもがなアンヌとマーシャのことだろう。
どうしてそんな事を聞くかは分からないが教団じゃないと分かっている以上、下手に誤魔化さないほうがよさそうだな。
・・・ハンス、上手く合わせろよ?
「アヌビスの方はアンヌ、俺の妻だ。」
「妻?・・・長年連れ添った感じには見えなかったぜ?」
「さっきなったばかりだ、後で本人に聞いて見るといい。」
「ほぅ・・・じゃあもう一人は何だ?」
「マミーの方はマーシャ、ハンスの恋人だ。」
「ハンスってのはお前だな?・・・どうなんだ?」
男はハンスの方を向き、”わざと”名指しで質問した。
こいつ・・・情報を聞き出す事に手馴れてそうだな、下手に長引くと面倒だ。
名指しされたハンスは少しおどけながら話す。
「え、あ、はい・・・まだ踏ん切りがついてないん・・・ですけど。」
「・・・踏ん切り?」
(余計な事を言うなハンス)「あんたには関係のないことだ。」
「どうだかな・・・まぁ、嘘ついてる感じでもねぇし信じてやるよ。」
「そりゃどうも・・・で、他に聞きたい事は?」
「いいやそれだけだ…脅かして悪かったな。」
そう茶化した後、ようやく男は構えていた武器を下ろした。
ハンスは緊張の糸が切れたのか「ふぅ・・・」と腰を下ろしてしまった。
だが俺は警戒を解かず続けて男に尋ねた。
「こっちの話もしたんだ、そろそろあんたの事も聞いていいか?」
「そういやまだ名乗ってなかったな、俺は・・・そうだな。」
何かを思いつくようにして男は名乗った。
「俺はグリム・・・そう呼んでくれ。」
「グリム?・・・あの死神の?」
ハンスが確かめるようにして男に聞き返した。
それもそうだろう、グリムといえばあの有名な死神の名だ。
当然偽名なんだろうがどうしてそんな名前を?
グリムと名乗った男はめんどくさそうに付け加えた。
「細けぇ事は気にすんな、意味なんてこれっぽっちも考えてないからな。」
「だとしたらセンスを疑う・・・。」
「気が合うな、俺もそう思うぜ。」
グリムは笑いながら他人事のように言った。
・・・この男一体何者なんだ?
分からないが・・・とりあえず敵意がないことだけはわかった、今の所は。
「じゃあ改めてグリム、どうして俺達をいきなり襲ったんだ?」
「それはな・・・えーっと?」
「・・・アレスだ。」
「おぅアレス、お前ら最近で魔物が何人も誘拐されてるのを知ってるか?」
「・・・それがお前と何の関係が?」
「俺はその犯人を追ってる・・・何か知らねえか?」
「誘拐・・・。」
魔物が誘拐される?
逆なら知ってるが・・・そんなこと普通の人間が出来るのか?
強い
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