第十四話 帰還 中編その2


『ミノス城』

コンコン。

私はある部屋の前で立ち止まりその豪華に施された扉をノックした。
あまりここへは来たくなかった、いや最近の城の者なら好き好んで入る場所ではない。
だが私にはここに居る人物にどうしても用があった。

「…鍵なら開いてるぜ?」

扉の向こうからぶっきらぼうな声がしたのを聞いて私は扉を開けて中へと入っていった。

「失礼します。」

部屋に入ると椅子の背もたれにだらしなくかける青年の姿を見つけた。
背中にマントを下げ、簡易な鎧を着けている辺りは剣士に見えなくもない。

「なんだ、飯ならさっき食ったぜ?」

めんどくさそうに青年が目も合わせずに鏡の様に磨かれた大剣を手で弄びながら言った。
私は気にせずに話をする。

「いえ、少しお話がありまして、お時間を少々…。」
「あぁ?今日俺は野郎と話す約束なんかしてないぜ。…気分が乗らねえから後にしろ。」

とりつくしまもなく、青年は犬でも追い払うように手を払う仕草をした。
…この男が勇者と呼ばれていなければ私は今腰に差している剣を抜いて切り捨てているところだろう。
そんな気持ちを堪えて、私は少し声の調子を変えて言った。

「…この間の作戦の話だと言ってもですか?」

私の言葉を聞いて勇者が弄んでいた手を止めた。
そのまま目だけをこちらに向けて勇者は私を睨みつける。

「なんだ…俺の仕事に文句でもつけに来たか?それとも”意見”しにきたか?」
「いえ、どうしても確認したいことがございまして…少しお話してもよろしいですか?」
「確認…?」
「はい、私にとっては重要なことなのです。」
「ふん…。」

すこし考えるように顎に手をやった後、勇者はだらしない姿勢のままこちらへとむいて笑いかけた。

「おもしろい…少し気が変わったぜ、話してみろよ。」
「ありがとうございます…、ではまず始めから確認していきましょうか…。」

私は鮮明に思い出しながら勇者に聞かせた。

「そう…あれは、司祭様の指令によりある村を浄化する作戦でした。」



…。



「ではこれより、魔物に支配された村を浄化するべく…作戦を開始する!!」

標的の村が見下ろせる丘の上。
そこで一個中隊ほどの武器を掲げた教団の騎士達が集まり、その前では指揮官らしき人物が全員を見渡し語り始める。

「下に見えるあの村には多数の魔物と魔に魅入られた哀れな者たちが住み着いており、あまつさえ無垢な民を襲い、その規模を大きくしているとのことだ。我ら神に使えし教団はこの行為を許すわけにはいかない。」
「知っての通り、村には腕の立つ魔物が数匹…さらには元戦士であった魔に魅入られし者共が守っており、いままでの浄化作戦は難攻を極めていた。」
「そこで事態を重く見た司祭様はこの作戦に多大な戦力を注ぎ込んでくださった、諸君らは教団の中でも選りすぐりの戦士達と聞いている、この戦いで一気に攻め落とすのだ!!」
「オォーッ!!」

「あぁくそ…うるせーな。」

指揮官が武器を高く掲げたと同時に騎士達は揃えて雄叫びを上げる。
その脇で五月蝿そうに耳を塞ぐ青年が立っていた。

「おおそうだ、諸君らに朗報がある…ミノス王国の大臣ゼネラル様の御計らいにより、あの魔王を討ち取ったとして知られる伝説の勇者様が我らの加勢に来てくださったのだ!!」
「おぉ…!!!」

その言葉にそこに居た全員がざわめいた。
至るところで『あの勇者様が…?』と声を上げ辺りを見回す。
すると、さきほど耳を塞いでいた青年がいつの間にか指揮官の隣へと来ていた。

「さぁ、勇者様…彼らに何かお言葉を…。」
「あーはいはい…。」

少し気だるそうに勇者と呼ばれた青年が少し前へと出る。
皆の注目が集まる中、勇者は語り始める。

「あぁー、俺は長ったらしい説明やらは嫌いなんだ、だからお前らにわかりやすく言っておく…。」

勇者は見下すような目付きで見渡しながら言った。

「俺の前に立つな、以上。」

「…。」

突拍子の勇者の言葉に一瞬、ざわついていた周囲が一斉に静まり返った。
その後、誰もが顔を見合わせ口々にざわめき始め、当の本人は上の空だった。

(なんなんだあの態度は?!我らは教団から選ばれたエリートなのだぞ?!)
(本当にあれがあの魔王を討ち取った勇者なのか…?)
(きっとどこぞの馬の骨が成りすましておるのだろう…すぐにボロを見せるさ。)

「あ、あぁ…コホン、さすが勇者様!!」

指揮官も最初はあっけにとられていたがすぐに気を取り直して皆に向き直った。

「ではこれより作戦の概要を説明する、各隊長は速やかに集まるように…勇者様もご一緒に―」
「いらねぇ。」
「…は?」

またもや突拍子なことを言い、皆の注目を浴びる勇者。

「俺はそういうめんどくせぇことはしないことに決めてるんだ、
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