第十四話 帰還 中編


―――――。


場所が変わり…ここは魔王の城から少し離れた森の中。
そこには一人の女性が城から逃げるように歩いていた。

「よいっしょ…よいっしょ…!」

何かが入った袋を重そうに引きずりながらその女性は森の中を歩いていた。
その格好は図鑑そのものの『クノイチ』だった。

「…このへんで良いかな?」

…しばらく歩いたあと、クノイチが近くのめぼしい木を見つけるとふぅ…と一息を付き座り込んだ。
そっと彼女は袋を見ながら不敵に微笑んだ。

「ふふふ、もっと手こずるかと思ったけど意外と楽勝だったわね…流石クノイチエリートの私。」

大きく出た谷間を見せながらクノイチは得意げに鼻息を鳴らした。

「主様の言っていたとおり、やはり口だけの魔王だったわね。そのおかげで私も楽にこなせたし…こんな良い任務は他に無いわ、それに…。」

クノイチは任務の途中に見た、ある男性のことを思い出し頬を赤く染めた。

「魔王の隣に座っていた人、アレスとか呼ばれてたけど私の好みだったなぁ…。」

クノイチは自分を抱きしめるような体制で悶絶し始めた。

「はぁ…ダメと分かっていても魔物としての身体が疼いてきちゃう。」
「…。」
「あんな逞しい人に抱かれたらどんなに気持ち良いんだろう…?」
「…。」
「強く抱きしめられて、乱暴に押し倒されて…胸とか弄ばされてアソコとか掻き回されて…その後ぶっといあれを…はぁっ…ゾクゾクする…。」
「…。」
「そして瞳があったときに…『俺の女になれ』とか言われちゃうんだろうな…きゃ〜!!」
「…そんな言い方はしないな。」
「そう?でも私的には強引な方が好きだし〜…。」

そこで彼女は初めて違和感に気が付いた。

「…え?」

彼女が袋の方を見るといつの間にか袋は消えており、その代わりに先ほど妄想をしていた男性が目の前にいた。

「そうか、強引なのが好きなのか…機会があれば覚えておこう。」
「?!」

驚いた彼女は尻餅を付きながらすごいスピードで後ずさった。

「ななっ、なななな何故貴方、いやき、貴様がここにっ?!!!」
「お前が連れてきたんだろうが…。」

半ば呆れながらアレスが答えるとクノイチはデュラハンなら首がとれる勢いでブンブンと横に振った。

「そんなはずはない!!確かに私は魔王を薬で眠らせて捕まえたはず…。」
「あぁ、あの嗅がせてきたやつか…あれで眠るのは素人ぐらいだぞ?」
「な、何故貴様がそれを…まさか?!」
「なにかおかしいな…?」

クノイチは何かに気づいたのかしまったという顔をした。
アレスはその場で考える。

本来ならばアレスがここにいるのは不思議ではない。
何故ならクノイチ本人がアレスを誘拐してここにいるのだから逃げ出していることを除けば驚くことではない。
そう、誘拐するのがアレスだったらの話である。

顎に手を当て考えていたアレスがそっと顔を上げた。

「…そうか、さっきから何か話がおかしいと思ってたがさては―」

目の前の男性、アレスが確信を突いた一言を言った。

「お前、俺と魔王(ヴェン)を間違えたな?」
「ふぎゅっ?!」

図星を突かれたクノイチは目を泳がせながらあたふたと手を動かした。
正解だったかと確信したアレスは半ば呆れながらクノイチを見た。

「ち、違うぞ?!決して間違えたわけではないっ、これは…。」
「これは?」
「そう、策…確実性を取った策なのだ!!」
「ほう…策とな?」

腕を組みながら興味ありげにアレスは聞き返した、もちろんこれは『どこまで嘘を重ねるか見物だ』という彼なりの意地悪である。
クノイチは必死に言葉を選びながら話し始めた。

「そうだ、これは策で…よ、要は誰でもよかったのだ!」
「…どうして?」
「たとえ違ったとしてもあそこでひとりでも居なくなれば必ず探しに来るだろう…そこへ一人になった魔王を捕まえればいいだけのことだ、どうだ…これなら確実だろう?!」
「ふん…なるほどな、よくわかったよ。」
「ふふ、分かればいいのだ。」
「自分も暗くて良く分からなかったってことがな。」
「ギクッ。」
「それとな…。」

アレスはずっと疑問に思っていたことをクノイチにぶつけた。

「普通はこんな白昼堂々としかもほぼ全員集まってたときにやるか?やるなら夜中寝静まった後とか一人になったところを狙うだろう…。」
「う…。」
「だいたいな…見たところお前は隠密か何かだろう?隠密がエリートクノイチだとか素性をばらしてどうするんだよ。」
「だ、だって…。」

アレスの言葉に打ちひしがれたのかクノイチが座り込んでしまった。
よく見ると目に涙が滲んでいる。

「だって最近主様からまともな任務なんてなかったし…いっつも呼ばれるのはデュナとシルバだし、アープには馬鹿にされるし…。」
「お、おい。」
「里でも『
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