第十四話 帰還 前編

魔王城にて…。


「…。」


談話室の中央に大きな魔方陣が描かれ、それを神妙な面持ちで見つめる彼女達。
ヴェンは目を瞑り、魔法陣に向かって手を添えてた。

「魔王様…アレスは、無事なのですか?」
「ちゃんと…帰って来れますよね?」
「…。」

ななとセーレの言葉も届いていないのかヴェンは黙ったまま微動だにしない。
心配する二人にリザとサラが語りかける。

「今は魔王様を信じて待ち続けよう…大丈夫、アレスは帰ってくる。」
「そうよ、私たちの素敵な旦那様なんだから…ちゃんと迎えてあげましょう。」
「…はい。」

その場にいた全員が二人の言葉に頷き、少し落ち着きを取り戻していた。
その時、ヴェンが目を見開き勢い良く立ち上がった。

「…来た!」

魔方陣の文字が赤く光りだし、その中央から白く光る球体が現れる。
それは典型的な転移魔法の光だった。
それを見た皆の曇っていた顔が一瞬にして晴れる。

「やった!アレスが帰ってくるっ!!」
「やった〜、やった〜!!」
「…ほんとに、良かった。」
「まったく…心配させて…バカ。」

ルカとプリンは後ろで大はしゃぎで飛び跳ね、他の者たちもアレスの帰還にほっと胸をなで下ろした。
しかし―

「…!」

ヴェンはまだその球体を見つめたまま動かない。
彼の額に嫌な汗が流れ始める。
不審に思ったレイが声をかけた。

「魔王様、どうされ―」
「駄目だ速すぎるっ…皆、伏せろぉ!!!」

魔王が叫ぶと同時に光を放ち球体は弾けた。
そこから弾丸のような速さで何かが吐き出される。

――ドオォォンッ!!

「うわぁぁ?!」
「ひゃぁ?!」
「危ないっ!!」

ガラガラガラガラ!ッガラ…ガッ…ゴゥン!!

予想もしない衝撃に皆がパニックになり、悲鳴を上げる。
それは凄まじい勢いでアレスとウシオニが部屋へと投げ出される衝撃だった。
テーブルやら椅子やら家具を全て巻き込み、魔王城全体を揺るがす。
やがて壁に大きな穴を開け二人はようやく止まった。
彼女たちは起きたことに実感が沸かぬまま恐る恐る声を上げ始める。

「一体、何が起きたのよ…?」
「うーん…死ぬかと思った〜。」
「皆しっかりしろっ、生きているか?!」
「なんだよ…まるで大砲かなんかだったぞ…?」

残骸やらをどかし、手を取り合って立ち上がる。
見ると部屋は台風でも通った後のように家具が粉砕され散乱していた。
一人レイが立ち上がり周りを見渡した。

「アレス?…アレス、どこなんだ?!」

必死に探すもアレスの姿は見当たらない。
と、近くにいたリザが声を上げる。

「いたっ!!…レイ、こっちだ…手伝ってくれ!!」

声のする方へと向かうとリザが懸命に残骸を取り除いていた。
その下にはアレスの足だけが見えており、そこから上は大きな残骸で隠れていた。
レイが一瞬最悪のケースを想像する。

「ア…アレス!?」
「この残骸をどかすんだ…早く!!」
「どきなっ!」

二人の後ろからレジーナが割って入り、倒れていた大きな食器棚をその豪腕で退かした。
そこからリザがアレスを抱きかかえる。

「アレスは…アレスは無事なのか?!」
「…大丈夫、まだ息はある…生きてるよ。」
「よかった…。」
「こっちにも誰かいるよ?!」

見るとルカとプリンが同じように残骸に埋もれたウシオニを発見した。
二人はゴブリンというのもあってか容易に残骸を退かせる事が出来ていた。
出て来たウシオニにななとたまが反応する。

「これは…。」
「なな…知っているの?」
「知っているもにゃにもジパングにいるウシオニにゃ、ねぇお姉ちゃん?」
「強靭としてしられるウシオニ様が…こんなになるなんて。」

その後ろではサラの手を借りてヴェンが立ち上がっていた。

「魔王様、大丈夫?」
「私は平気だ…皆も無事か?」
「魔王様!アレスとウシオニが見つかりました…こっちです!」
「…わかった!」

ルーの示す方へと行くとアレスとウシオニがそこに横たわっていた。
取り囲むようにして彼女達は心配そうに見つめる。

「二人共…一体何が?」
「アレスは…大丈夫でしょうか?」
「…。」

皆が焦る中、ヴェンは落ち着いた様子で二人の状態を見る。

「アレスは大丈夫だが…ウシオニの方はまずい、このままでは手遅れになってしまうぞ。」

ヴェンは見渡すように立ち上がった。

「手分けしよう…リザは医療道具を、レイは私の部屋からめぼしい薬を全部持ってきてくれ!」

「御意!」
「仰せのままに!」

指示を出された二人が勢い良く部屋を出ていった。
続けてヴェンは指示を飛ばす。

「たまとななは書物庫からウシオニに関する資料を集めてきてくれ、ルカとプリンはここの残骸の撤去、ロイス君とラズは止血出来そうなもの…シーツでもなんでもいいありったけ持って
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