海賊ネズミ団―狙うは無限チーズ?!―


穏やかに佇む大海原。
眠気を誘うような規則正しい浪の音を聴きながら、船はゆらゆらと進む。

「暇だな…。」

一人の青年が船長室で椅子の背もたれに寄りかかりながら呟いた。

机の上には海図が何枚も散りばめられ、空の酒瓶がいくつか転がっている。

「ここ最近マシな事がない…これじゃ鈍っちまうな。」

普段なら輸送船を襲ったり島に上陸したりと動きっぱなしの彼らだが今に至っては暇を持て余していた。
外では船員のラージマウス達が追いかけっこをして遊んだり、チーズを賭けて(結局喧嘩になるが)ギャンブルをする始末。

本来であればこういう何もないときは隠れ家でじっとしているが『高級チーズをのせた定期船が通る』という情報を聞き、船を走らせたのだった。

結果…見つけたのはただの観光船で、料理に使う程度の微々たるチーズしか無かった。

手ブラでは帰れないと海図を開くもののここら一帯は何もなくただただ海が広がるだけの海域だった。
まさに八方塞がり…。
どうしようもないのでこのままゆらゆらと船を進めていた。

「でもなんとかして動かさないとあいつら怒るだろうな…。」

情報がデマだったときもあいつら「てぶらじゃかえらないぞ―!」とか言って息巻いてたしな…多分そろそろ―

ばんっ!!

と青年が考えていたら案の定、扉を蹴破って入ってきた。

―――――。

「こりゃー、お頭!!」

プンスカと頭に煙を出したベスが机を乗り出して怒る。
…見かけが見かけだけに怒っていても可愛らしい。

「なんじゃこの体たらくぶりは?!いつになったら船を走らせるんじゃ!?」

やっぱ、そうきたか…。

「仕方ないだろ、行き先も目的も無しで船は進められない、ここで輸送船が通りかかるのを待ち伏せていた方がなんぼかマシだ。」
「わしらは泣く子も黙る海賊ネズミ団じゃぞ、攻め込まずしてチーズなど得られん!!」
「そうは言っても八方塞がりだ、最悪引き上げることも考えないと…食料ももう少ないんだろう?」
「むむむ、ぶ、武士は食わねど高楊枝と言って…。」
「お前海賊じゃなかったのか…?」

ベスの言う事も分かってはいる…、だからこそ俺はここで何か起こるのを待っているんだが安直な考えだったか…?

「それにじゃ、こんなところで待っておったらいつか海軍に見つかってしまうぞ?」
「それは大丈夫だ、奴らが宛もなくこんなところ通るわけない…通るとしたら定期船―」

ドォーンッ!!!

「うわぁ?!」
「ひゃぁ?!」

突如、轟音のような音が響き船が揺れた。

「なな、ななななななんじゃっ?!」
「くそっ、ありゃ大砲だ!!」

部屋を飛び出し甲板に出ると、辺りはパニックになっていた。

「なんだなんだ〜?!」
「てきしゅう、てきしゅうっ!!」
「敵ってどこ?!何も見えないよ?!」
「みはり、ちゃんとみろ〜!!」
「なにもいないよっ!!」
「お前ら落ち着けっ、報告しろ!!」

慌てふためくラージマウス達を落ち着かせる。
一体何が起こったんだ?!

「あ、おかしら!」
「やった〜、おかしらがきた〜。」
「被害は?当たったか?!」
「だいじょうぶ、撃ってきたのはいっぱつだけ〜。」
「一発だと…敵は?」
「それが…どこにもいない…。」
「いない…?」

どういうことだ…?
敵は大砲一発撃って逃げたってことか??
だとしたら舐めたことしてくれるな…。

「まだ近くにいるかもしれねえ、飛んできた方向へ舵をとって追いかけろっ!!」

「「「おーっ!!」」」

「おかしら、ちかくで誰か浮いてる!!」
「なに?!」

言われて船から水面を見てみると板の切れ端に捕まるようにして男がゆらゆらと浮いていた。

「さっきまではなにもいなかったよ〜。」
「もしかするとさっきの砲撃はこやつかもしれんぞ?」
「馬鹿な…人間を砲弾にして撃ち込んだっていうのか?」

そんなどこぞの世紀末じゃあるまいし。
だがさっき打ち込まれたのはここだとも聞いていたし…なにか知っているかも。

「よし、誰かあいつを助けてやれ。」
「はーいっ、わたしがいく〜…とぅ!!」

リルカが勇良く何も付けずに海へと飛び込んだ。
まて…何も付けずに?

「馬鹿っ!!、ロープも付けずにどうやって引き上げる気だ?!」

ザバーンと着水した後、船の下の方から泣きそうな声が響く。

「ふえぇぇん…たすけて〜。」
「やれやれ…。」


…。


「で、こいつは一体何者なんだ?」

ぼとぼとになった服を乾かしながら気絶したままの男を見下ろす。
ベスが持ち物を調べているが難しそうな顔をしていた。

「ふむ…持っているものは液体の入った瓶だけ、これだけでは特定できんな。」
「…なんの液体なんだ?」
「わからん…薬のようにも見えるが…?」

とても船旅するような持ち物じゃねえし
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