第十三話 瀕死の賭け 



(ここだな…。)

しばらく山を上り詰め…地図の最終目標である洞窟へとたどり着いた。
入口は注連縄が引かれており、まさに入るべからず…といった感じだ。
奥の方は暗くてよく見えない…洞窟というより石蔵に近い、だが地図によればここにはある魔物がいるらしい。
ヨスケに頼んだのも元よりこれが目当てだ。

思えばこのジパングでも長い道のりだったな。
そういえば…送ったジパングの皆は仲良くやっているだろうか?
結構な人数になってきたから向こうではきっと賑やかになっているんだろうが…。

「ここにいる魔物を送ったら一度戻るか…。」

皆も心配しているだろうし…島に漂流した子供の事も気になる、無事に戻れるよう気を引き締めていこう。

俺は注連縄を潜り洞窟の中へと入っていった。

…。

暗い洞窟の中を松明の明かりを頼りに進んでいく。
湿気でジメジメしているせいか所々コケが生えている、転ばないように注意しないと。
気づいたが、ここは外よりも若干だが暖かいようだ…いや、気になるのはそこじゃない。

「なんだ…この魔力の濃度は?」

息をするのも辛いほどの高濃度の魔力がそこらじゅうから感じる。
洞窟自体ではなく側面の石や地面に付いた何かの黒い染みから放出されているようだ。
何かは分からないが少なくとも自然から出るものではない、触れるのはやめたほうがよさそうだ。
早くも薬を飲んでおいたほうがいいかもしれない…。

(…行き止まりか?)

どうやら最新部へと到達したらしい。
思ったほど深くはなく、見上げればここからでも出口が見えているほどだ。
辺りには何もいない…大きな石があるだけだ。

「…おかしいな?」

空気中の魔力はまだ新しいものだし、それに心無しかここだけ少し暖かい。
すれ違いは考えにくい、抜け穴があると考えたほうが自然か?
そう思ってもう一度辺りを見回した時だった。

「ん?」

今…石の一部が動いたような?

松明を向けるとそれは緑と黒の大きな石。
その石肌はやけに滑らかで…。

(違う…こいつは?!)

石に紛れていた彼女は持っていた明かりに向かって飛びかかってきた!

「ぐっ!!」

松明を投げ捨ててその巨体を受け止める。
黒い石と思っていた部分は彼女の大きな腕と八本の足で、俺を捕まえようと伸し掛ろうとする。
そして何故俺が”彼女”だと分かったか?
…俺の目の前には特徴であるでかい胸と綺麗な女性の顔があるからだ。

そう、こいつはまさしく―

「ウシオニ…!」

ジパングで唯一危険視されているアラクネ種の魔物だ、その性格はかなり凶暴でこいつのせいで行方不明になった男も少なくない。
特徴は八本の足と異常なまでの性欲、今も俺を犯そうと息を巻いている。

「我ト…交尾…精…貰ウ!!」

盛りきった獣のようにウシオニは全体重をかけてのしかかってくる。
なるほど、これは危険視されるわけだ…。
だが…。

「力だけでは俺には勝てんぞ…!」

彼女の巨体を押し返し、隙を見て突き飛ばした。

「ガゥッ…!」
「?」

突き飛ばした際、ウシオニの顔が一瞬苦痛に歪んだような気がした。
それに巨体の割に力もそれほど掛けてこない…。

「…捕マエル。」

低く呟いたあと、ウシオニは身体から蜘蛛糸のようなものを放ってきた。
縄ほどの太さの糸が瞬時に俺の左手へと絡まる。
彼女はその糸をたぐり寄せるように引っ張っろうとする…が。

「ガ、ガァ…!?」
「どうした、俺を捕まえてみろ?」

いくらウシオニが引っ張っても俺が掴んだ糸は動くことはない。
逆に左手に力を込め彼女を手繰り寄せる。

「グッ、ググ…!!」
(なんだ…ただの見掛け倒しか…?!)

ふとよく見ると…苦しむ彼女の身体から黒い液体が流れ出ていた。
それは先程から見ていた魔力を帯びる黒い染みそのものだった。

「まさか?!」

俺は左手の力を抜き、よろめいた隙に懐に入り糸を輪にして彼女の両手首を縛った。

「ガァ!!?」
「やはり…。」

近くで見たとき俺の予想は的中していた。
ウシオニの身体にはいくつかの切り傷があり、そこから黒い液体…血が流れ出していた。
…普通なら失血死するほどのレベルだ。
彼女は傷だらけでも尚、抵抗する。

「落ち着けっ、俺はお前を狩りに来たわけじゃない!!」
「グゥ…ググ…。」

暴れていたウシオニに俺は顔ごと目線を合わせた。
黄色い二つの目が俺を覗き込む。

「いいか、俺を見ろ…俺の目を見るんだ。」
「…?」
「そうだ…良い子だな。」

俺の目を見たウシオニが自然に落ち着きを取り戻していく。
俺はそのまま彼女を諭すようにゆっくり話しかけた。

「俺はお前を殺しに来たわけじゃない、俺はお前の夫になるためにここへ来た。」
「オ…夫…?」
「そうだ、だからもう暴れなくてもいいんだ
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