「山の天気は変わりやすいとは聞いていたが…。」
送る前にヒメから「少し寒くなるかもしれんのぅ…。」と、聞いてた矢先の事だった。
「これは寒くなりすぎじゃ…ないのか?」
そこは白い銀世界。
どこを見ても真っ白、おまけに風まで強くなり吹雪になる始末だ。
先程までは日が隠れていた程度だったはず…どうしてこんなことに?
ザクッ…ザクッ…と雪の中を歩いていく。
「これはどこかで雪を凌がないと凍え死んでしまうな…。」
山道だからって軽装で来たのはまずかった。
急いでどこか暖まる場所を探さないと…。
多少は耐えることができるが何もない雪原で眠るとなると自殺行為だ。
「洞窟か…廃家…吹雪を凌げるところなら何処でもいい、急がないと。」
……。
俺はずっと宛もなく歩き続けていた。
方角も分からないうえにどれだけ歩いても見渡してみても白い景色が広がるだけで何も見えない。
歩いていくうちに段々と体力が削られ…足も動かなくなってくる。
手は感覚を失い、体温も分からなくなり…意識が朦朧とする。
「こりゃ…本格的に…まずい…な…。」
バサッ…。
足を取られ雪の上に倒れた。
…正直起き上がれるほどの力がない。
背中に感じる雪の冷たさが逆に暖かくなるような錯覚に見舞われる。
「はは…参ったな…、眠くなってきやがった。」
寝てはいけないと頭のどこかで叫んでいる。
だが瞼が落ちていくのを止められない。
こんなとこで寝るぐらいならヴェンのところで眠りたかったな…。
「…そうだ。」
今更何言ってる。
俺には待ってくれている妻たちがいる、俺の帰りを待ってくれている皆がいる。
こんなところで…くたばってられるか…。
なんとか仰向けの身体をうつ伏せにし起き上がろうとする。
「…ん?」
気のせいか?
今、前を見たとき何か屋根が見えた気がしたが…。
「…気のせいじゃない!!」
間違いない、だいぶ埋もれているがあれは屋根だ。
屋根があるのならまだ下の家は崩れていないはず…。
身体を奮い起こして立ち上がり、屋根へと近づいていく。
人間、希望があればどんな状態でも意外に動けるもんだ。
近くまで来たとき明らかに人がいる痕跡を見つけた…。
「なんだ…?中に人がいるのか?!」
こんな辺境の地で…だが逆に今はありがたい。
「すまない、誰かいないか?!」
力を込めてドンドンッと戸を叩く。
吹雪が強くなってきた…急いでくれ…!!
しばらく…何度か鳴らし続けた時だった。
「はい…。」
中から細くか弱い声が聞こえてきた。
どうやら女性みたいだが…。
「旅の者だが…吹雪が酷くて凍えそうなんだ、出来れば中へ入れてもらえないか?」
「旅のお方…、殿方でございますか?」
「そうだ…別に怪しい者じゃない、最悪この家の前でも構わない…止むまで居させてくれないか?」
「…。」
俺の返答に向こうは黙ってしまった。
出来れば中へと入りたいが中からの声が一つしかないとなると今いるのは女性だけということになる。
なぜこんな所に一人かは分からないが、警戒されても仕方がない…。
なんとか信用してもらえないか?
しばらくして…。
「…わかりました。」
ゆっくりと戸が開き、中へと入れてくれた。
「ありがとう…恩に切る―」
開けてくれた女性を見たとき、俺の動きが止まった。
「寒かったでしょう?どうぞ…お入りください。」
「あ、ああ…。」
想像していた以上に…綺麗な人だった。
…。
中は少し寒く薄暗かった。
無理もないか…、窓も殆ど雪で積もっているしな。
でもなんか変だな、少し違和感が…?
「少しお待ちください…夕食を用意致します。」
「お気遣いなく、吹雪が止むまでだし…。」
「大丈夫ですよ…簡素な物で申し訳ないのですが。」
「…すまない。」
囲炉裏に火が灯り寒かった部屋全体が暖かくなった。
その上に鍋を吊し、グツグツと米を炊いていく。
「はい…どうぞ。」
「おぉ…。」
俺はあっというまに並べられた料理に心底驚いた。
焼き魚であったり、汁物であったり…。
こんな辺境の地でまともな料理が食べられると思わなかった。
「確か食べるときは…そうだ、『いただきます』。」
「ふふ、冷めないうちに…。」
温かいご飯を俺は貪るように食べた。
最近色々な事があったせいでまともに食べていなかったからとても美味しく感じる。
「それほど美味しそうに食べて頂けるなんて…嬉しいです。」
「いやいや…助かった、それにしても…えっと?」
名前を聞こうとしたとき、ユキノは座り直して自己紹介した。
「私、雪乃(ユキノ)でございます。」
「ユキノか…どうしてこんなところに一人で?」
「私…あまり群れるのが苦手で…こうして静かに暮らすのが好きなんです。」
「へぇ…ずっとここで
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