「女将さん、部屋の掃除終わったよ。」
俺は掃除道具を倉庫に直しながら女将さんに伝える。
「ありがとうアレス。ついでに、二階のお客にご飯が出来たから食堂へ来るように伝えてきて頂戴。」
カウンター越しにここの宿屋の主である女将さんが料理を並べながら言った。
「わかった、伝えてくる。」
階段を駆け上がりお客の部屋へと向かった。
俺の名はアレス、二年前にこの村へやってきた流浪人。以前まである一行と旅をしていたのだが、そいつらに嫌気が差して抜け出し、気のままに歩いていたらここにながれついた。ここはどこにでもある平凡な村で、色々あって、その中の小さな宿屋で俺は住み込みで働いている。
「よし、今日はもうだれも来ないだろうし、一息つこうか?アレス、あんたの好きなお茶を今淹れてあげるから、先に座っときな」
「ああ、今行く。」
女将と一緒に食器やらを片付け後、俺たちは一息つくことにした。食堂のテーブルに着き、女将にお茶を入れてもらう。俺は何よりも女将の淹れてくれるこのお茶が好きだ。
「ん、ありがとう、女将のお茶はやっぱり美味しいな。」
「ふふ、あんたはいつも美味しいって言ってくれるから、うれしいよ。」
今、俺の前で話しているのが女将、名前を教えてくれないがこの宿を一人で切り盛りしている力強い印象の女人だ。旦那さんと二人で暮らしていたらしいが、旦那さんを病気で亡くして以来、ずっと一人で店を守ってきている。
「そういえば、あんたがここに来てからもう二年が経つのか…、早いねぇ。」
お茶を飲みながら、女将は二年前に俺がこの村に来たことを思い出しながら話しをした。
「あの時は驚いたもんさ!この村がゴロツキやチンピラの溜まり場になってて皆困り果ててたところに、急にあんたがやってきて全員追い出しちまったんだからね、こうやって気持ち良く商売が出来るのもあんたのおかげだよ。」
「そんな大したことしてないよ。俺は気に入らないから殴っただけだ、そしたら向こうが勝手に逃げていっただけの話。」
実際始めてここにきた時はひどいものだった。
チンピラやゴロツキがはびこり、店を開けるだけで金を出せといわれ、払えなければ最悪殺される。そんな酷な状態に皆苦しめられていた。
そこへ俺が流れ着いたわけだ、最初は宿を借りるだけのつもりで寄ったのだが、入った途端言われた言葉が金を出せ、一発殴ってやったら集まってきて…後は分かるな?
「それに女将さんには感謝してるよ。こうして俺は不自由なく暮らせているし、頭が上がらないよ。」
「なに言ってるんだい?!あたしはあんたのおかげでだいぶ助かってるよ。あの人が亡くなってから心細かったしね…。ほんと感謝してるよ。それより、二年前と言ったら丁度、勇者様が魔王を退治しなさった時期だね。」
・・・・。
「あんたも相当強いし、実は勇者様といっしょだったりし…、て、アレス?」
「ごめん女将さん、俺もう休むわ。」
そう伝えると俺は足早に部屋へと向かった、後ろから女将さんの声が聞こえたが気にせず階段を上っていく。
「またやっちまったよ・・・。あの子は勇者様の話をすると機嫌が悪くなるんだった・・、どうしてかねぇ。」
女将さんは冷めてしまったお茶を片付けながら呟いた。
……。
バタン。
「ふう。」
部屋に入り扉を閉め、ベットに腰掛ながらため息をついた。
勇者、俺がこの世でもっとも嫌うものの一つ。
女将さんは別に悪いわけじゃない。それは分かっているのだがどうしても勇者の話だけは聞きたくない。勇者を思い出すだけでも吐き気がするぐらいだからだ。
…ベッドに横になりながら、そのときの事を思い出していた。忌々しくもあるが俺の意識とは裏腹に、鮮明に広がっていく。
魔王を倒した時の事を。
※回想モード
「ついにこの時がきた。」
勇者は、立ちはだかる絶対的な悪「魔王」に剣を向け語る。
「俺はお前を倒し、人々を苦しみから救うためにここへきた。そして今こそが、お前の最後だ!!!」
言葉を言い終えると、勇者は魔王に剣をつきさした。
「ぐ、ぐあああああぁ。」
魔王は苦しみ悶えながら、その大きな巨体を地に付けた。
そして高らかに勇者は宣言する。
「勝った!!俺はついに悪を滅ぼしたのだ!!命あるものよ!もう恐れるものは無い。世界に平和が訪れたのだ!!!!」
この言葉はやがて伝説になり魔王を打ち破った勇者は、世界を救った英雄として人々に語り継がれるだろう。
「はい、Okです。勇者様、音声は無事記録いたしました。もういいですよ。」
「ふう、やっぱり慣れねえことをするのは疲れるな。まあこれで金と名声がもらえるんなら安いもんだ。」
……真実を知らぬまま。
「よう皆、これでこのくそみたいな旅も終わりだ。早く帰
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