第九話 ジパング 前編


「ここが…ジパング。」

船を降り船長達と別れた後、俺は港へと降りた。
港から見てもここは別世界に思える。
それは人の服装でもあり町並みでもあり、こちらとはずいぶん違う。
それだけにここに来たという達成感もある…観光に来たわけではないが…。
とりあえず移動したいが、どこから行ったものか?

「ちょっと、そこの旦那!!」

行き先を悩んでいると急に声を掛けられた。
振り向くと一人の男性がこちらへと走ってくる。
服装からしてジパングの人だろう。

「いやいや…ようこそお越しくださった、初めての観光ですかい?」
「あ、あぁ…。」

どうやら俺を観光客と間違えているようだ。
まぁそっちの方が話しやすいし訂正する必要もないだろうが…。
でもこの男は一体?
俺が訝しげに見ていると男は慌てて自己紹介を始めた。

「これは失礼、あっしは『ヨスケ』。観光客を専門に案内をしておりやす。」
「ガイドみたいなものか?」
「そんな大層なもんじゃありやせんが、外来の方にここを楽しんでもらえるよう説明もいれて案内しやすぜ?まぁ…もらうもんはもらいますけどね?」

ヨスケと言った男は少し意地悪く笑いながら言った。
それほど怪しい人物にも見えないし、実際ここを案内なしに行くのは少し心細かったところだ。
信用してもいいだろう。

「わかった、案内を頼む。」

ヨスケに金貨を何枚か手渡した。

「へへ毎度!!ではこちらへ、どこか行きたいところはありやすかい?」
「いや、出来れば適当に頼む、特に町の方を。」
「そうですかい?じゃあまずは腹ごしらえと行きましょう!この町は何といってもうどんが美味しいんでさ!」

ヨスケに連れられて町の方へと入っていく。
そこには俺の知らない世界がまた広がっていた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐。


「どうです旦那、口に合いやすかい?」

店の中に入りうどんと言われる麺類の料理を頼んだ。
麺が太いうえにきつねと呼ばれる甘い生地を乗せて食べる料理。
最初はすこし抵抗があったが食べてみると意外に美味しい。
スープもすっきりとしていてかなり食べやすかった。

「旨い…旨いんだが。」
「…だが?」
「俺はこっちの方が気になる。」

食べるときに手渡された『ハシ』という二つの細い棒だ。
これがなにより使いにくくて食べるのに苦労してしまう。
周りではこれを片手で器用に麺を啜っている。
…すごい文化だ。

「あぁ、箸に馴染みが無いんでやんすね、たしかそっちでは『ふぉーく』とかなんとか言う奴を使うんでしたっけ?」
「あぁ、それとナイフとスプーンだ…でもハシみたいには器用には使わない、ここの人たちはすごいな?」
「そんな所褒めても仕方ありやせんよ?」

とか言いつつもヨスケは少し照れくさそうにした。

「ん?」

なにやら外が急に騒がしくなりドタドタと走る音が続いている。
俺が不審に思っていると外から声がした。

「御用だ、御用だ!!」
「お縄を頂戴せぃ!!」
「なによ、ちょっとぐらい見逃しなさいよ!」

声から察するに追いかけられているようだ。
ヨスケが耳元でボソッという。

「旦那は、『妖』の類は平気ですかい?」
「アヤカシ?…あぁ、魔物のことか?」

たしかジパングでは彼女達のことを妖、あるいは妖怪と呼ぶんだったな。

「俺は平気だ、見たこともある。」
「そいつは良かった、なら話しやすが今のは妖怪が町に入り込んだ騒ぎですわ。」
「町にだって?」
「いやいや、旦那が考えてるような攻め込むとかじゃありやせん、もともと妖怪ってのは人と仲良いもんですからね?」
「その言い方だと、妖怪たちはもともとこの町に住んでたみたいだな?」
「お察しの通り!…ですがこの町で貿易が始まると向こうのお得意さんらが妖怪を見て逃げ帰ってしまうんですわ、なかには殺生しようとする奴までいてこりゃいかんと組合で話し合った結果、御触れを出して貰ったんですわ。」
「御触れ?」
「妖怪はこの町にはいるべからず、ってね、まぁ破った所で捕まえて追い出すだけなんで心配はいりやせん。」
「そうか…。」

その話を聞いてすこしホッとした。
だがここにも影響が出ているとなると少し申し訳なく思った。
早く元通りになればいいのだが。

「でも旦那は平気そうで安心しやした、姿は人と違えど妖怪はいい奴が多いんでね、なによりべっぴんぞろいと来てるもんだから男のあっしとしても嬉しい限りで!!」
「…そうだな。」
「おっと失礼、じゃあそろそろ違う場所に行きやすか!オヤジ、勘定ここに置いとくぞ!!」

ヨスケはまたハツラツとした勢いで俺を連れ出した。
ほんとにこの男は楽しそうに案内するのだな…。



‐‐‐‐‐‐‐。


気づけば日も傾き夜になった。
夜になるとジパングの町並みは姿を変えた。

「これが本来の顔でっせ
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