二人の主人公 後編


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客の出入りも落ち着いてきてそろそろ閉店しようかという時間に俺は店主に事情を話しこの世界の常識を教えてもらった、説明も面倒なので記憶喪失と言う事で話を進めた。

「あんた…大丈夫かい?」
「…あぁ。」

店主のサラマンダーの話を聞いて、正直自身を保つのが精一杯だった。

心配されながらも俺は聞かされた常識を思い返していく。
歴史、情勢、出来事、人物、すべての説明を受けて確信した事。
それは俺が知っている常識とは全く違う世界だということ。
そして俺はただ一人そこに迷い込んでしまった遭難者だと言うこと。
唯一の共通点はこの世界にも彼女達(魔物娘)がいるという事ぐらいだろう。

「気の毒にね…大丈夫、記憶が戻るまであたしが面倒見てあげるからさ、そう落ち込みなさんな?」
「え、ああ、ありがとう。」

今日会ったばかりだというのに店主は俺に優しくしてくれる。
話し方もそうだが昔の女将さんを思い出す。
女将さん…元気だと良いが。

「それと、もう一つ聞きたいんだが?」
「うん、なんだい?」

俺はずっと疑問に思っていた事を聞いてみることにした。

「この街の事を教えて欲しい、何が起こっているのかを。」
「あぁ…。」

店主はすこしウンザリした様子で話し出した。
恐らくいろんな人から同じ事を聞かれているせいだろう。

「あんたが聞きたいのはどうしてあんな境界線があるんだってことだろう?」
「あぁ、今まであんなのは見たことがないからな、昔からあるのか?」
「いいや、元々はここは親魔物派の街でね…皆仲良くそれなりに活気は出ていたんだ、あいつ等が来るまではね。」
「…教団か。」

俺の予想した答えに店主は深く頷いた。
やはりな…奴らがここにいる時点で気づいてはいたが。

「ここの一帯を治めてる王様が決めたんだ…すべての街に教会を置く事を義務付けるってね、当然あいつ等は真っ先にあたし達を追い出そうとした。」
「それで?」
「勿論あたし達は猛反対し立ち向かったさ、だが向こうも引かなくってね…結局内戦にまでなっちまうほどだった。」
「…。」
「内戦が続くにつれあたし達は愛する夫や友人が傷つくのを見たくなかった、だから向こうにある交渉をしたんだ。」
「それが…あの線か?」
「そう、境界線を作るって事でようやく落ち着いたんだ、分断されるとはいえ命の方が大事だからね。」

すこし思い耽る様に話す店主。
それだけならいい話で済んだのかもしれないが…。

「じゃあどうして“線”なんだ?」

壁で囲むなら分かるが実際この街には線が一本引かれているだけだ。
これでは話がこじれてしまうのは明白。

「あたしたちも最初はそう思った、境界を作るって言うのに出来たのがただの線なんだからね…。資材に困ってるんだと思ってあたし達が手伝いを申し出たけどあいつらは断った。」
「そしてあのままか?」
「そうさ、いつまで待っても線だけだからね…だから向こうも線を越えてやりたい放題さ、仕方なくあたし達が壁を建設しようとしたらあいつら何をしたと思う?」

店主は握りこぶしを作り、悔しそうに目を伏せる。
まさか…。

「攻撃してきやがったのさ…違反行為だってね、見返り無しに協力してくれた仲間が大勢捕まって見せしめにされたんだ…魔物は交渉を守らない下賎な存在だってね…。」
「…。」
「あたしはそこで気づいたんだよ、あいつらはもとから交渉する気なんて無かったんだ…初めからあたし達を悪者にして追い出す事が目的だったんだよ。」

俺は気分が悪くなるほどに憤慨していた。
どうして元々住んでいた彼女達がこんな事に会わなければならないんだ?
国が決めたこととはいえいくら何でもこれは不合理すぎるだろう。
ならどうして…。

「どうして誰も反発しないんだ?これだけの事が起きて。」
「向こうでも不満を持つ奴はいるよ…でも教団が力で押さえつけて何も出来なくしてるんだ、それにこの街の殆どは外から来た人間が多い…奴らの嘘を知らずに信じてる奴も少ないんだ。…逆に私達が攻め込めば奴らの思う壺さ、『魔物が人間を襲いに攻め込んできた』と声を揃えて言うだろうね。」
「…。」

これが神の意志だとでも…馬鹿馬鹿しい。

「まぁ他の理由としても私達の技術や物資が目当てだろうね…向こうからは調査と言う名目で今日あった風に押し込んで『怪しい物だ』といって全部持っていっちまうのさ。」
「まるで勇者だな…。」
「そっちの方がよっぽどいいよ…だが奴らがいつ攻め込んでくるか分からない、そこであんたにお願いがあるんだよ。」
「?」

店主は話を変え、俺の手を握り締めて言った。

「あたし達じゃあいつらに手が出せない、だからちょっとの間…あんたにこの街を守って欲しいんだよ。」
「俺に…?」
「あんたは腕っ節も良いし、あたしたち
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