「…んあ?」
薄暗い朝日の光に目が覚め、身体を起き上がらせる。
堅い道の上で寝たせいですこし痛い。
「ふわぁ…なんで俺はこんなとこで寝てるんだ、というよりここは何処だ?」
自分でも覚えが無い土地。
辺りは草原に囲まれ道が一本だけ続き、以前レジーナとアヤに会った街道に似てなくも無いが何か違う。
確か俺は商人達と街へ行って…それから船に乗るために宿をとって…それから。
…駄目だ、思い出せない。
「いや、でもこんな所は見たことが無い…妙な感じだ。」
そう、肌に合わないというか…馴染めてないというか…。
俺の存在自体が認められてないというか…。
「…そんなわけ無いか。」
多分寝ぼけて感覚がおかしくなっているんだろう。
俺がこんなとこにいる理由は第三者の力か夢遊病かは調べれば分かる事だ。
後者でない事を望むが…。
「とりあえず宿に戻ろう…こっちだったか?」
方角は分かっているので歩き出してみる事にした。
…ここにいても不安になるだけだからな。
「ん?」
道の先でなにやら騒がしくなってるのに気がついた。
声からして数人がなにかまくし立てる様に怒鳴ってるようだが…。
「丁度良い、道を尋ねてみるか。」
走って近づいて行くうちに全貌が見えてきた。
銀色に包まれた鎧の騎士達、十字架を象った旗、傍には魔物と夫らしき男性。
その目で捕らえた時、俺は気持ちが落胆していくのを感じた。
「…やれやれ。」
それだけでどういう状況かおおむね把握できる。
胸糞悪くなる前に早いとこ加勢しよう…無論、魔物に。
−−−−−−−−−。
「貴様ら…こんなものを引いて街で何をするつもりだ!!」
鎧に包まれた騎士たちは荷車を引くホルスタウロスと夫を囲みながら威圧する。
夫の方はまだ若そうな青年で、ホルスタウロスを守るようにして立ちふさがっていた。
「ぼ、僕達はただ…彼女から採れたミルクを街へ売りに行く所です…。」
「我ら教団の許可無しにミルクだと…魔物から採れた毒を人に飲ませようとしたのか?!」
「毒なんかじゃありません!!…彼女のミルクは栄養満点で沢山の人から買ってもらっているんです!」
威圧されながらも果敢に立ち向かい、青年の後ろでホルスタウロスは不安そうにびくびくと震えていた。
「ミルクと偽って隠れて毒をばら撒く…さては貴様、魔物の工作員だな?!人間の癖に魔族に寝返るとは…恥を知れ!!」
「そんな?!僕達はただの酪農家です、それに何回申請しても取り次いで貰えなかったじゃないですか!!」
「ええぃ黙れ!!…貴様のような魔物に穢れた者に神に代わって裁きを与える!!」
怒鳴っていた騎士が剣を引き抜き、青年に向けた。
きらりと光る刀身に青年は身を固めた。
「コウちゃん…逃げて…。」
「大丈夫…君だけは絶対に守ってみせる。」
足を震わせながらも手を広げ愛する者を守る。
その勇気に一人の男が動かされていた。
パチッ…パチッ…パチッ…。
「…ん?」
「…え?」
どこからともなく拍手が聞こえ、騎士たちは辺りを見回した。
注意深く聞くとそれは荷車の積荷の方から聞こえた。
「いやぁ、感動した。」
いつの間に乗ったのか馬車からアレスが降りてきて、拍手を続けながら青年のもとへと歩いていく。
彼は青年の手を握り締めて言った。
「俺も長く旅をしてきたがお前ほど勇気を持った男はいなかった、種別を超え愛する妻を守るその勇気…気に入ったよ。」
「は、はぁ…。」
青年は手を握られどうして良いか分からず生返事をした。
後ろのホルスタウロスも同じ状況であった。
「おい、貴様!!」
急に出てきたアレスの首元へ騎士は怒鳴りながら剣を当てる。
少しでも力を入れれば首が切れてしまうほどの距離だ。
「舐めた真似をして、貴様もこいつらの仲間か?!」
脅しにも関わらず平然とアレスは振り向き、その剣を掴んだ。
「だったらなんだ?」
「ぐっ…?!」
騎士が剣で振り払おうとしたが掴まれた剣は動かない。
額から汗が吹き出、歯を食いしばるも剣はびくともしなかった。
「お前らの目は節穴か、こんな幸せそうな夫婦の何処が魔物の工作員に見えるんだ?…それともわざとやってるのか?」
「ぐぐぐっ…は、放せっ!!」
「どちらにしても俺は許しはしないがな。」
アレスはさっと剣を放し、反動で騎士は後ろへと転んでしまった。
周りの騎士達が抱き起こすも顔を真っ赤にしてその手を払いのける。
「くそ、殺せ!…我ら教団の力を見せ付けるのだ!!」
次々に剣を引き抜き、アレスに剣先を向ける。
彼はそれでも涼しい顔をしていた。
「…殺す気で来るんだな、なら多少痛い目にあっても恨むなよ?」
アレスは鞄に添えられたこん棒を取り出して目の前の騎士に向かっていった。
…………。
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