「…どう…て…です…?!」
「?」
上へと上がる際に隣の部屋から話し声が聞こえてきた。
その部屋の上へと回りこみ、通風孔の上から覗くと若い男二人が言い争いをしていた。
「船長、やはり今すぐにでも手を打つべきです、幸い部屋に閉じこもっていますし…これはチャンスですよ?」
「駄目だ、あの男に手を出す事は許さない。」
「魔物を匿っているんですよ、何故?!」
「奴は匿ってなどいない、あくまで捕獲だ…俺も気に食わないが奴のお陰でこの船が守られたのは事実だ…不審な動きもしていない以上、見守るしかあるまい。」
「匿ってる…?」
二人の話から推測するにこの魔物というのが恐らくセーレだろう。
しかしあの男というのは一体…?
とにかく無事であるという事は分かっただけでも良かった。
続けて二人の話を聞く。
「船員達も馬鹿ではありません…皆薄々魔物に感づき始めています、このままでは船の士気に関わります、せめて魔物だけでも−。」
「俺達が苦労した魔物さえ平気とするイカレタ奴だぞ?!実力も現状も把握してない状況で軽率な判断は出来ない、それこそ部下を危険に晒す行為だ…それに…。」
「それに…なんですか?」
「俺にはどうも…魔物が、人を喰らうようには思えんのだ。」
「な、何を馬鹿な?!」
船長らしき男から意外な発言が飛び出し、もう一人の男も含め私も驚きを隠せない。
この人間は…私達の事を理解しようとしてる?
「船長、気でも狂ったんですか?!」
「俺はいつでも真面目だ、だからお前に言ったんだ。」
「船長も見たでしょう?蛸のような化け物に部下が連れ攫われるのを…。」
「分かっている…分かってはいるが…。」
蛸の化け物とは私の事を言っているのだろうか?
確かに“漁”の際は足だけを出してるせいで外から見ればそう映るが…それはそれでひどいな。
「あれから考えていたんだが…俺は一度も奴らが人間を食ってる所は見た事はないし…死体も見た事が無い。」
「海底で丸呑みにしているから死体が残らないだけですよ?」
「そうかもしれん…だが俺は間近でセイレーンを見ていたんだが、あの男に近づいた後…何をしたと思う?」
「何…って?」
「接吻だ…それも愛し合った恋人のようにな、もし教会の奴らの言う『魔物は人を喰らう』という話が本当ならあいつは食い殺されていたはずだ…だがしなかった。」
「…。」
「実際俺も魔物の誘惑に掛かっちまってるのかもしれないが…信用できるお前にだけ話した、…お前はどう思う?」
「私は…。」
少し考えた後、男は決心したように話し始めた。
「確かに私も言われればそんな気もしてきましたが…やっぱりそれでも部下を失った事には変わりありません、そのことがある以上…私は彼らを許す事は出来ません。」
「…そうか。」
二人はしばらく黙った後、結論を出した。
目的地に着くまでは男に見張りをつける事、そして少しでも不審な動きがあれば拘束はやむをえないという事で二人の話はついた。
私はその部屋から離れ、上へと上がっていく際、考えていた。
「人間達の中でも気づき始めてる者もいるのか。」
本来、人間の間で広まっている噂がさっきの話にも出た『魔物は人間を喰らう』というものだ。
これは私達魔物に仇名す教団という連中が流しているそうだ。
それを人間は疑いもせず信じ、何もしていない私達を攻撃してきたりした。
私達も無理やり人を攫ってきているのだから仕方ないとはいえ…生きるためには人間の精が必要なのだ、こうでもしない限り…私達は絶滅してしまうだろう。
彼らと分かり合うのは交尾した後だと思っていたが…どうやらセーレと会った人間が関係しているらしい。
私はその人間に深く興味を抱いた。
「いずれにしても、セーレがいる所を見つけないと…。」
通風孔を経由してある部屋へと到達したときだった。
「!…見つけたっ!」
私のいる丁度真下にセーレがいた。
すぐ横には人間の男もいるが、私の想像していた光景とはかけ離れた状態だった。
「…やけに仲が良いわね。」
私が思い描いていたのは簀巻きにされて泣き叫ぶ彼女とそれを傍観する商人、といった類だった。
実際はセーレが人間の男に後ろから抱き付いて身を寄せ、甘い時を過ごしている。
「好き〜♪」
「頼むからあんまりくっつくなよ?」
「どうして?恋人同士だからいいじゃん。」
「それはいいんだが、お前の羽根がくすぐったくてな…。」
二人が楽しそうに話しているのを見て、先ほどまで心配していた私が馬鹿みたいに思え脱力した。
なんだ、やっぱりお気に入りの男性を見つけ…というところでおかしい事に気づく。
もしそうならこの船はとっくに制圧され、もぬけの殻になってるはずだ。
でも船は通常通りに動き、人間達も変わらない様子だった。
だとしたらやっぱり捕獲
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