黒い少女の恋物語


「はぁ…。」

都会の真ん中に設けられた広場の噴水に腰掛け、私はため息をついた。
周りには高級店が立ち並び煌びやかなネオンの看板が光り、客引きはしきりに通りかかるものに声をかけ、夜中だというのに街は買い物客で賑やかさを増して行く。
私は一人…店に入るわけでもなく、誰かを待つ訳でもなくこうして眺めているだけ。
嫌な事があると私はいつもここにくる。


「…ふぅ。」

気持ちも落ち着いたところで私は街の通りにへと歩き出した。
煌びやかなネオンが私を出迎えてくれる。
そしてまた今日も私の一日が始まった。

「…。」

一人通りを歩いていた。
帰宅途中のサラリーマンや買い物途中のセレブとすれ違いながらも私はあても無く歩き続ける。
ここを歩くのも何度目だろう。


ここには魔物娘と呼ばれる存在がいる。
昔は分からないが今となっては見かけるのも特に珍しくも無い。
それどころか今や世界の人口の半分が魔物娘になっていると言われているぐらいに魔物娘は沢山居る。
私もその一人。
でも違うのはこの街に居る魔物娘は皆、私よりも格段に綺麗で魅力的な人ばかりだ。
私がこの街に居るのが疑問と思えるほどに…。

通りの向こうを見てみれば…赤いドレスに身を包み、何人もの男を引き連れたヴァンパイア。
道路を挟んで向こうの通りには…清楚な着物に身を包み、団体で歩くゆきおんな。
公園の方には…カップルでイチャつく可愛い顔したワーキャット。
テレビジョンには今売れているALS(アリス)48が映し出されている。
誰もが魔物娘としての魅力を持ち、最高のパートナーと出会い幸せに暮らしている。
それに引き換え私は…。

「…はぁ。」

ウインドウに映る自分の姿を見て、またため息をついた。
黒くて地味な色合い、怪しく光る赤い目、出るとこも無い幼児体系。
こんな魅力の無い私に誰が振り向いてくれるのだろうか?

「いる訳…無いよね…。」

それでも私は魔物娘、人間の精を貰わなければ餓死してしまう。
そんな私がどうやってここまで生きてきたか?
その答えは私が今ここであても無く歩いているのに関係している。
ある特定の人間、ある状況に苦しめられている男性に会うため。
それは、『最近振られた』男性。
私はその人の記憶や思考を読み取って、その人の思い人になる事が出来る。
記憶も能力もそのままにその人の理想の女性にへと変わる事が出来る私は、その人に成りすまして姿を現し、あたかも帰ってきた恋人のように振舞う。
騙された事も知らず男性は成りすました私を愛し、性交をする。
そうして私は生きる源の精を貰い、生きてきた。
これが私、『ドッペルゲンガー』の能力。
でもそれは偽りの愛、私の仮の姿を愛しているに過ぎない。
私に能力にも限界はあり、月が見えない夜や極度のストレスが掛かると変身は解けてしまう。
私の本当の姿を見た男性は皆、同じ目をしていた。
「騙された」「心を踏み躙られた」と失望と憎しみを含む目。
あんなに愛してくれたのに、あんなに尽くしたのに外見が変わると皆他人のように私を追い出した。
それがトラウマになって私はこの前、せっかく分かり合えた男性を見つけても月が隠れた夜に逃げ出してしまい…この場所へと戻ってきていた。
何日もそれを繰り返していくうちに…私は決心した。

『次に見つけた男性が駄目なら…この街を出よう。』

ここを出たところで当ても無いけど、もうここには居たくない。
たとえ行き倒れてもそれでいいとすら思えてしまっていた。
次が駄目なら…。

「うーん。」

交差点、公園、広場、色々な場所を回っているけどそれらしい男性はいない。
普段はこの辺りで見かけるのだけど…。

「最後だし…気分を変えてもっと静かな所にしてみよう。」

そうして、暗い路地裏の方へと足を進めた。



「こんな所あったんだ…。」

路地裏の方は先ほどの大通りの賑やかな印象が消え、辺りを暗く静かに存在させていた。
まるで違う世界に入り込んでしまったかのような錯覚に陥ってしまう。

「少し怖いけど…大丈夫だよね?」

ゆっくりと辺りを見ながら歩いていると、小さなお店が目に入った。
看板を見てみると、『BAR Dandy』と書かれている。
お酒を飲む所らしい…“私”は飲んだこと無いけど。

じっとみていると扉が開き、中から人が出てきた。
ひげを生やし、すこしぽっちゃりしたおじさん、エプロンをしているから多分お店の人だろう。

「お嬢ちゃん、こんな時間にどうしたんだい?」
「え?!あ、えっと…その…。」

いきなり声をかけられた私はしどろもどろになり上手く言葉が出なかった。
普段“私”の姿で話したことが無いから余計に落ち着かない。
どうしよう…どうしよう…。
おじさんはさらに言葉を続ける。

「ここはお嬢ちゃんのような子が
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