「こっちに来て欲しい?」
「そうだ。」
ルカがいた洞窟から少し離れ、次の町へと続く道を歩いている途中、ヴェンに(彼女達が心配しないようにと)定時連絡をした時そう言われた。
こっちとは言うまでも無いがヴェンと彼女達がいる魔王城…もとい仮住まいの家のことだ。
どんな家かは詳しくは知らないがヴェンいわくそんなに不自由はしてないらしい。
そこに来いと言われたのは今回が初めてだ。
「かなり急だな…何かあったのか?」
「いや、大変というわけでも無いのだがどうしても君の力が必要なんだ。」
「必要?…何をすればいいんだ?」
「それは此方についた時に説明しよう、さあ早く。」
「行きたいのは山々だが…。」
「…何か問題があるのか?」
俺が言葉を濁したのにヴェンは不安そうに聞いてきた。
別に今から行こうと思えばいける、行けるのだが…。
「どうやって行くんだ?」
「…え?」
俺の言葉にヴェンは最初理解出来ていないようだった。
実際の所、俺はヴェンが今何処にいるのかは全く知らされていない。彼女達を送る際でもヴェンを念じれば良いだけなのだから場所を特定する必要も無かった。
まあ、ヴェンはまた地図にも載ってないような所に居るのだから知った所で行くのはかなり難しいが…。
少しの沈黙の後、その考えが通じたのかヴェンは慌てて訂正をするように言った。
「…あぁ、そういうことか!それならば心配はいらないぞ?」
「何か方法があるのか?」
「なに、容易な事だ。一度ケースから転送魔法のカードを一枚取り出してくれ。」
「カード…?あぁ、これか。」
俺はケースを取り出し、言われた通りに札を一枚手に取った。
「持ったな?じゃあそのまま動かないでくれ、後はこちらでしよう。」
「こちらでって…何をするんだ?」
「何を今更…、何回も見てきただろう?今度は君の番だ。」
「おい…まさか!?」
悪い予感は的中し、俺の身体は急に光り始めた。
まるで自分が消えてしまうかのような錯覚に囚われ、血の気が引いていくのを感じた。
「本当に、大丈夫なんだろうな?!」
「あぁ、少し立ち眩みをするかもしれんが直に良くなる、安心して身を任せろ。」
徐々に光りが強くなり、意識を保てなくなっていた。
そして…。
「う…うわぁぁぁ!!」
俺はその場から…消えた。
風が心地よく吹き、草原が波打つかのようにその背を靡かせる。
その緑一色の地に突如光が弾け、男が現れた。
「あ…あう…おえ。」
地に足が着いた途端、激しい嫌悪感と吐き気に俺は膝を付いた。
肩で息をしながらなんとか身体を落ち着かせる。
「くそ…ヴェンの奴、もっとマシな方法は無かったのか…?」
一人愚痴りながらも立ち上がり、大きく息を吐き辺りを見回した。
ここは空気が澄んでいるおかげか状態はすぐに良くなり、むしろ開放感に包まれるような清清しい気分になった。
「ここが…魔王のいる…島?」
ここが辛うじて島という事だけは分かった、草原の向こうは切り立った崖になっており強く叩きつけるような波音が聞こえてきたからだ。
だが俺の想像していたような暗いおどろおどろしい雰囲気は何処にも無かった。
それどころか美しい風景が広がり、ここが聖地だと言われても疑わしく無いほどの土地だ。
前回の魔王城が魔界の真ん中にあった為かそんな印象が付いてしまったのかもしれないが『魔王のいる島』というだけでもやはりそういう想像が出来てしまう。
こんな所に身を隠すヴェンはとことん魔王らしくない魔王だな…。
「で…肝心の家は何処にあるんだ?」
てっきり家の中か前ぐらいに出現すると思っていたが周りにそんな建物が見えない以上、少し離れた位置に出てしまったのだろう。
…ヴェンが失敗して無人島に送ってない限りだが。
「とりあえず連絡してみるか。」
俺がイヤリングを通してヴェンを念じた時だった。
ガサッ…。
「んっ?」
後ろでと草の根を踏む音が聞こえた。
身を隠す訳でもなく堂々と近づいてくる、その軽快さが自分を襲おうとしているものではないと教えてくれた。
そっと後ろを振り返ってみると…。
「…やっぱりな。」
見知った顔がそこにはあった。
黄色の瞳、緑一色に染め上げられた装備…そして剣、トカゲのような尻尾。
その者の存在こそがここにヴェンがいるという証明となった。
「リザ…。」
「後ろ姿を見てそうじゃないかと思っていたんだ。」
持っていた剣を鞘に収め、リザが俺の方へと駆け寄ってくる。
そのままの勢いで彼女は俺を抱きしめた。
「お帰り…アレス。」
「あぁ…ただいま。」
抱きついた彼女からは汗の匂いの他に懐かしい香りがした。
…感動の再会を後にして。
俺はリザにヴェンがいる家の方まで案内してもらった。
歩きながら二人で他愛の無い
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