「…お前、一体。」
俺が先ほど立っていた場所には大きなこん棒が振り落とされ地面は轟音を上げ歪んだ。
そのこん棒の持ち主は俺を睨み付けた後、軽々と獲物を構えなおした。
「…リーダーをどこへやったんだ?!」
「ルカ、何をそんなに…?」
「あたしは見たぞ?リーダーが急に光りだして消えていくのを…どこにやったんだ?!」
そう言って彼女はこん棒を薙ぎ払った。
俺はなんとか身を屈め避ける事が出来たが後ろの象牙の椅子は粉々に砕けてしまった。
プリン…怒らないでくれよ?
「待て!話を聞け、プリンは−」
「喰らえっ!!」
「うおっ!」
なんとか説得しようとするがルカは聞く耳持たずこん棒を振り回した。
部屋の家具やら備品が瓦礫にへと変わっていく。
このまま騒ぎになって集まられるのも厄介だ、話して理解してくれるといいが…。
「分かった!プリンの場所を教える、だから落ち着け。」
「!…ホントか?!どこだ?」
ルカは振り回していた腕を止めて耳を傾けてきた。
構えている彼女と向き合いながら、俺はゆっくりと話し始める。
「いいか、プリンは…。」
「プリンは?」
「魔王のところへ送った。」
「!?」
ルカは俺の言葉に驚いたように目を見開いた。
なんとか伝わったようだ、これで大人しく…。
「き、貴様ぁっ!!」
「おうっ?!」
彼女は怒りでぶるぶると震えた後、怒声を上げ俺にこん棒を振り落とそうとした。
俺はこん棒を掴んでなんとか阻止する。
「よくも…プリン様を…!」
「お前話を聞いてなかったのか?!」
「魔王のところへ送ったなんてキザな言い方して…絶対に許さないっ!」
「何を勘違いして…!」
そうか!今魔王は死んでいる事になっているんだった、魔王の所へ送ったなんていえば「地獄に送った」って言っているようなもんだ。
しかし普通そんな解釈するか?
そこまで単純だとは思わなかったぞ?!
「この…離せぇぇ!」
「ぐっ…。」
彼女の強力とも思える押し込みに俺は苦しくも押されていた。
額から汗が止め処なく流れ落ち、腕ももう悲鳴を上げている。
くそっ、今日ほど不運を呪った事はないぞ?
「くっ、このっ!」
「あんっ!」
彼女の隙を突いて俺は横へとすり抜けた。
押さえられていた力が急に解放され、彼女は前のめりに転んでしまう。
俺は仰向けに倒れている彼女の首を掴み締め付ける“フリ”をした、殺気を込めた目で彼女を睨み付ける。
「…これ以上暴れるなら首の骨をへし折るぞ?」
「…!」
もちろん俺はそんなこと出来るはずがない、云わばこれは分の悪い賭けだ。
ここで彼女が暴れればすべてが終わる、頼む…聞いてくれ。
「…っ。」
彼女は無言のまま俺を睨んでいたが諦めたかのように身体の力を抜いた。
俺は心の中でそっと胸を撫で下ろし、話を続けた。
「いいか?まずお前はとんでもない誤解をしている、何か分かるか?」
「…?」
「それを先にハッキリさせておく、良く聞けよ?」
「う…うん。」
ルカは俺の言葉にキョトンとしながらこちらを見ていた、俺は力強く彼女に伝える。
「魔王は生きている。」
「…へ?」
「なぁんだ、それならもっと早く言って欲しかったよ。」
「…言う前に暴れだしたのは誰だ?」
「ははは…ごめん。」
なんとかルカに事情を話し誤解を解くことが出来た。
今は暢気に笑ってはいるがそんなことで叩きのめされたらこっちも堪ったものではない。
単純というのは意外と恐ろしい事なのかもしれない。
「でもさ、それならどうして私に反撃してこなかったの?」
「どうしてって…。」
「その話だと…あんたならあたしくらい軽くチョイチョイッて倒せたんじゃないの?」
「それは…そうだが。」
実際の所はそうだ、俺が彼女を“殺す気で”戦ったのなら訳もなかっただろう、だが俺は…。
「俺は…なるべくお前たちを傷つけたくない。」
「えっ?」
「魔物とはいえ…誰かが傷つくのは見たくないからな。」
「…。」
俺の言葉にルカは黙って俯いてしまった。
俺の考えに甘いと罵っているのだろうか?それともそんなに柔じゃないと怒っているのだろうか?
「やっぱり…。」
「?」
俺はそう考えていたが実際はどちらも違った。
「やっぱり諦めきれないっ!!」
「うわっ?!」
ルカはいきなり俺のほうに飛びかかってきて簡単に俺を押し倒してしまった。
息が荒く頬も紅潮してしまっている、いくらなんでも忙しなくないか?
「リーダーが気に入ったから諦めようかと思ったけど、あたし…やっぱりアレスが好き!」
「今日会った奴に言う台詞じゃないぞ?!」
「今までいろんな奴を襲ってきたけどあんたみたいな男はいなかったよ?」
「それは光栄だが…。」
「ねぇお願い、あたしをアレスの嫁にして?なんでもしてあげるから
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録