「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」
薄暗い不気味な雰囲気を醸し出す森を息を切らしながら走り抜ける。
木を避け、茂みを飛び越え、せりでた枝に肌を切りながらも走り続ける。
別に俺は急いでるわけでもなかった、本来ならば彼女達魔物娘を見つける為にもっと注意深く行動しなければならない筈だった。
だが俺は走らなければならない、人間が急いでる以外に走る理由は限られている。
そう例えば…。
「「待ってよ〜っ!」」
何かから逃げている時などだ。
「くそっ、まだ追ってくる?!」
俺は振り返り、自由に飛び回りながら追ってくる二人組みを見る。
その表情は歓喜に満ちており、まるで欲しい玩具を見つけた子供のように嬉しそうだ。
「ふふっ、待ってよ〜、そんなに逃げる事ないじゃない?」
「気持ちよくしてあげるから〜、逃げないでよ〜。」
こっちはそれどころじゃないってのに!!
今俺を追いかけている二人組みはサキュバスと呼ばれる魔物だ。
高い魔力を持ち、遥か昔から存在していたとも呼ばれている古い種族。
魔物娘達の中でも特に性に強く、そのためかその姿は男を虜にするには充分すぎるほどの美貌と身体を持っている。
だが一番厄介なのが彼女と交わった後だ、彼女達は性交する際に自分の魔力を相手の身体に注ぎ込もうとする。
彼女達の魔力を注ぎ込まれた男は彼女達無しでは生きられない身体、『インキュバス』にへと変えられてしまう。
そうなったら最後、俺は自我を失い死ぬまで交尾してしまう“魔物”と化すだろう。
インキュバスについては詳しくは知らないが今俺はそれになるわけにはいかない。
この旅の一番重要な点は…俺が人間でなければならない事だからだ。
ヴェンが今そのための薬を開発してくれている、それまでは彼女達には会いたくはなかったのだが…。
「早く振り切るか、隠れでもしないとっ…。」
俺は走りながら身を隠せそうな場所を探した。
…だがそう簡単に見つかるものでもなく体力だけが消耗していく。
後ろから彼女達の羽音が徐々に近づいてきた!
このまま走っていても追いつかれてしまう…。
「いったいどうすりゃっ…!」
息も絶え絶えになり意識が朦朧としてきた時だった。
「あ、あぶないっ!」
不意に後ろから予想外な声が聞こえ無意識に振り返った。
…だがそれがまずかったようだ。
踏みしめようとしていたはずの地面が消え、俺の身体はふわりと宙へ浮いた。
振り返ると先程のサキュバスの一人が身を乗り出し、俺に手を差し伸べてくる。
時が緩やかになったような錯覚、すべてがゆっくりと動いていく。
俺は反射的にその手を掴もうと自分の手を伸ばした。
…だが虚しくもその手が繋がれる事は無く、二人は虚空を掴む。
彼女はなにか叫んでいたが俺には聞こえなかった。
俺はそのまま彼女から離れるようにして暗い底へと落ちていった。
足を踏み外し、崖から転落した事を俺が知ったのは地面に叩きつけられ、傾斜をごろごろと転がり続けた挙句、森(地形的にどう考えても山)から排出された後だった。
森へと続く道の真ん中で俺は這い蹲るようにして倒れる。
身体を動かそうとするも全身が硬直して動かない、落ちたときの衝撃がまだ残っているのだろう。
「うぅ…がはっ、ぐっ。」
身体が悲鳴を上げ、口から血を吐いて咳き込んだ。
意識が遠ざかっていくのを何とか堪える。
ここで意識を失えば間違いなく死ぬ、こんな死に方は俺はごめんだ。
「これは…まずいか。」
こんなことになるのはあの勇者に切られて以来だな、と一人力なく笑う。
不意にさっきのサキュバスの顔が頭を過ぎった。
あの時俺の手を掴もうとしたのは捕まえようとしたからなのか、それとも助けようとしたからなのか。
どっちにしろ、今ではそれも知りようが無い。
「…ふぅ。」
少しずつ身体の硬直は解け、這いずりながら何とか木に持たれかかる事が出来た。
俺はここで動けぬまま時を過ごさなければならない。
ヴェンに助けを呼ぼうとも考えたが…止めた。
無駄な心配は掛けたくないし、何より彼女達を不安にさせてしまう。
俺の勝手な見解だが多分死にはしない、ここで夜を明かせば何とか動けるほどにはなるだろう。
そう思っていた矢先だった。
ガサ…ガサガサ。
目の前の茂みから何かが姿を現した。
角の生やした少女?…少なくとも人間では無さそうだ。
彼女は俺の姿を捉えると無邪気そうに駆け寄ってきた。
そして俺が動けない事を悟ると意地悪そうに微笑む。
俺も同時に引きつった笑みを浮かべる、全身から嫌な汗が滲み出るのがわかった。
どうやら…今日は厄日だったようだ。
最後に俺が見たのは、彼女が手に持っていた巨大な棍棒を俺に振り落ろす姿だった。
「…ぅん?」
薄暗い洞窟の中で俺は目を覚ました。
藁の上で身体を起こ
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