リザをヴェンの所に送り、俺は先程の広場へと来ていた。
辺りには門前で避難していた住人達や商人達が各自、自分の家や店へと戻っていく。
その中で一人、こちらに走ってくる者がいた。
「アレスさん!…探しましたよ?」
「ムンドか、どうした?」
ムンドは息を切らしながら俺を呼んだ。
彼の手には大きな袋が握られている、中身が相当詰まっているのか、かなり重そうだ。
「どうしたじゃありませんよまったく…。いきなり街に入っていくんですから驚きましたよ、で、魔物はどうなったんです?」
「あー…逃げられてしまったよ、でももう街には攻め込んで来ないだろう。」
「そうですか…でも薄々感じていましたが、やはりアレスさんは只者では無かったのですね?魔物に勇敢にも立ち向かうなんて、まるで勇者様を見ているようです。」
「勇者…ねぇ。」
そんな名前を付けられる位ならいっそ極悪人とでも言われたほうがマシだ。
俺はそう心で悪態つきながらもムンドの話を聞いた。
「そうでした!例の装備、高く売れましたよ?これが代金です。」
そう言って彼は持っていた袋を俺に手渡した。
ザクっと音を鳴らして渡された袋はかなり重かった。
「こ、こんなに、そんなにいい装備だったのか?」
「ええ、向こうの店主も驚いてましたよ、こんな装備見た事無いって。」
ムンドは自分の事のように嬉しそうに話した。
彼のおかげでこうして旅の準備も進められる、礼をしなくてはな。
「じゃあ、これがお前の取り分だ、ご苦労だったな。」
俺は袋を取り出すと適当に金を詰め込みムンドに手渡した。
ムンドは手渡された袋の大きさに驚き俺を見た。
「え、こんなにですか?!」
「ああ、お前のおかげで助かったよ。これはそのお礼だ。」
「アレスさんには命まで助けていただいたのに…感謝しきれません。」
「別に構わないよ。そうだ…これを返さないとな。」
俺は荷物から預かっていた指輪を取り出し、彼に返そうとしたがムンドは手でそれを押し返した。
「いや、それは…アレスさんに差し上げます。」
「なんだって?」
ムンドは落ち込んだ様子で指輪を受け取るのを拒否した。
俺は慌てながらもムンドに問いただす。
「これはお前の妻の形見なのだろう?だったらお前が持つべきだ。」
「いえ、アレスさんに預けてから踏ん切りがついたのです、それを持ってても彼女は“返ってこない”のだから」
「だったらせめて、墓にでも供えてやるとか…。」
「その…墓にいないんです。」
「…どういう意味だ?」
彼がさっきからおかしな表現をしていることに気が付いた。
返ってこない?墓にいない?
…まさか。
俺の出した最悪な予想をムンドは肯定するようにいった。
「彼女の遺体が…盗まれたのです。」
「な、なんだって…。」
ムンドは声を押し殺すようにして話し始めた。
妻の葬儀の翌日、ムンドは妻が大好きだった花を持って墓へと向かったときだった。
墓場に着くと何故だか人だかりが出来ていた。何事かと見ると妻の墓の前に大きな穴が開いており、棺ごと無くなっていたのだという。
後から聞くとその町では墓荒らしが頻発しており、棺に遺された金目の物を狙って大胆にも棺ごと持って行ってしまうのだという。
唯一残ったのが、墓の前にお供えしようとした指輪だけだった。
「ひどい事をする、死者への冒涜だ。」
その話を聞いて俺は怒りが抑えられずにいた。
安らかに眠る事も、愛する夫をも見守る事も出来ず、ただ永遠に悲しむしかない。
それを知らず盗んだ奴は営利目的で墓を荒らす。
そんな奴を俺は絶対に許さない。
そう一人で憤慨していると、ムンドは吹っ切れたように顔を上げた。
「だからもういいのです、こうやって旅商人を続けていればいつか手掛かりが掴めるかもと思っていたのですが…アレスさんがいた村が最後の希望だったのです。」
そういったムンドの目には涙が流れていた。
俺はもう一度返された指輪を見つめた。
古くなっているものの鏡面の様に綺麗に磨かれており、そこから俺の顔が映し出される。
その中に彼の妻、ローラの顔が浮かんだ気がした。
…とても悲しそうな顔だ。
俺はその指輪を握り締めある事を決意した。
「わかった、この指輪を預かろう。ただし、これはその妻を探し出すために使わせてもらう。」
「え…?」
ムンドは伏せていた顔を俺に向け、驚いたように目を見開いた。
俺はそのまま話を続けた。
「俺は今からいろんな所を回りながら旅をする、その上でお前の妻の遺体も捜そう。」
ムンドは俺の言葉にまだ実感が湧いてないようだったが、ハッと気づき慌てて言った。
「そ、そんなこといいですよ、アレスさんにそんな事頼めません…。」
「頼まれてするんじゃない、俺は自分でそうすると決めたんだ、人の妻を攫うような奴は懲
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