―開戦当日―
――ザバーン
ほど離れた所から波の音が聞こえる
風には少し潮のにおいが混じっておる
「あんたが勇者シェルク?」
第一声を発したのはやはりクリステアじゃった
儂らは両軍をガラフバルとガラテアの国境付近に集め、対峙しておった
そしてお互いの軍の将同士で開戦前の会談を行っておったのじゃ
人間側からやってきた3騎
恐らくは中心に立つ黒髪の女がシェルクかのう
腰には細長く湾曲した白い鞘に納められた聖剣
勇者たちの持つ聖剣の中では異質な形のそれはおそらくはジパングの“刀”というやつじゃろう
そう言えばこやつの父の出生はジパングだという報告を聞いておったのじゃ
ふむ。ジパングの神秘、刀を使う黒髪の勇者か
なるほど。立ち姿も凛としており、なかなかのものじゃ
と、そやつが口を開いた
「ふふ。美しい見た目の割にずいぶんと元気の良い姫君だ。しかし姫様。私はもう勇者ではない。今はシェルク王と呼んでくれるか?」
「ふん!たかが人間の分際で王様を名乗ろうなんて聞いてあきれるわね!」
「ふむ。私が聞いた話ではリリムは人間の事を好いてくれていると聞いていたが…」
「ふん。私は姉さまたちとは違うの。あんたたちは下等で弱い生き物なの。本来なら私たちと話すことだって恐れ多いことなの」
「それはそれは、考えが及ばず申し訳ないな。しかしこうして話さなければ下等な我々はあなた方の意を解すことができないのだ。どうか容赦してくれ」
クリステアの刺々しい言葉の数々を柔らかい笑顔で飲み込むシェルク
なんともまぁ…
魔物の儂から見てもこやつ等では格が違う
リリムは確かに優れた種じゃ
しかし、このクリステアとシェルクでは人としての出来が段違いじゃ
もしもこのシェルクが魔物であったならばこんな小娘、赤子を捻るように駆逐されてしまうことじゃろう
儂はシェルクとやらが人間であることが惜しく思えた
「戦には互いに死力を尽くして臨むのじゃ。儂らが勝てばガラテアは貰っていく。その民についてもしかり、じゃ」
「それは困った。恐れ多くも今のガラテアはとてもじゃないが高貴な姫様に渡せるような国ではない。そこでどうだろうか?私がもっとガラテアを良く、大きく発展させると約束しよう。戦はその後にしては貰えないか?」
「ぶっ!…」
儂はシェルクの言葉に思わず吹いてしまった
小娘への皮肉も効いたいい論法じゃ
やはりこの娘は賢い
並の魔王軍の将軍程度では相手にならぬはずじゃ
たった一国で魔王軍の進撃を6年も食い止め続けた理由は間違いなくこやつの存在じゃろう
「う、うるさい!私は今すぐあんたの国がほしいの!ふん。民も一人残らず魔界に飲み込んでやるんだから!覚えてなさい!」
「ああ。姫様のその熱い言葉、明日まで忘れんよ」
「ぶふぅっ!…」
クリステアめ、完全に遊ばれておる
しかしシェルクめ、敵ながらあっぱれな物言いじゃ
たとえ人間といえど、やはり持っている者は持っている
「それはいいのじゃがシェルク王?」
「ん?……………」
「な、なんじゃ?」
儂が話しかけると何故かシェルクは儂の方をじっと見つめてきたのじゃ
「……(ジュルリ)。いや、すまない。貴女があまりにも愛らしいのでつい見蕩れてしまった」
え、いや、ジュルリって…
なんだか危ない気配を感じたのじゃが?
この戦、何が何でも負けられない気がしてきたのじゃ…
「ご、ゴホン、なのじゃ。それはそうと、この兵力差じゃ、どうじゃ?おとなしく引いては貰えぬか?今引いてくれるならば国土の半分と妻子持ちの男たちは安全に返すと約束できるぞ?」
「それは魅力的な提案だ。しかし逆に言えばそれ以外の者たちを私はお前たちに売り渡すことになってしまう。さすがにそれは私の誇りが許さないのだ」
「お主は自らのちっぽけな誇りのためにそれ以上の民を危険な目に合わせるつもりか?」
「いや。いくらかわいい幼じ…ゴホン。貴女の言葉とは言え、私の誇りをちっぽけだとは言わないでもらいたい。私の誇りとは即ち民。ここにいる兵、国に住む人々すべてが私の誇りだ。私は誇りを護るためならば誇りをかけて戦いもするさ」
い、今こやつ何か言い掛けなかったか!?
い、いや、それは置いておくのじゃ…
その言葉
その眼差し
全てが王たる風格を持っておる
間違いなく強敵じゃ
唯一の救いはこの歴然とした兵力差か
儂は自軍と敵軍を見比べる
パッと見てその差は5倍
しかもこうして退治して並んでいる以上奇襲は掛けにくい
欠点があるとするならばこちらの半数、そして司令官たる儂らは遠征軍
地の利は向こう側にあるといった程度か
しかし、こちらも飛行部隊をそれなりに用意してきたのじゃ
さしもの奴も空からの敵には下手な奇策は使えまい
「ふ
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