城前の広場には大勢の民や兵がひしめき合っていた
みな不安を抱え、私の言葉を待っている
ふぅ…
何度立っても、こういう場は緊張するものだ
まったく…我ながら小心者で困る
「みな、聞いてくれ!この国は現在、建国以来の未曽有の危機を迎えようとしている」
――……
――ざわ
広場が揺れる
ざわめきが空気を震わせる
「もはやこの国は我々人間にとって、安全な場所ではなくなった」
揺れる
国が
民の心が
その様子を見て、不謹慎にも口元が緩んでしまう
「一昨年の冬を覚えているだろうか?我々のこの地に隣国フリーギアの足跡がつけられたあの時の事を。あの時は皆に多大な迷惑をかけてしまった。まぁ、あの時は呑気なフリージアの兵たちが腹を向け高いびきをかいていたくれたおかげで我らは辛くも勝利を収めたが…」
――ざわざわ
――くすくす
民や兵の一部から笑い声が漏れた
フリージアとの戦では大規模な夜襲と包囲せん滅作戦により勝利した
私がそのことに皮肉を込めて言ったことに気付いてくれたようだ
「しかし今度の相手は魔王軍。夜の生き物である奴らがそうそういびきをかいて眠りこけてくれるとは思えん」
――ざわざわざわ
――ひそひそ
民に広がる動揺
ところどころから「あの噂は〜〜」と言った声が聞こえる
「正直に言おう。彼ら…いや、彼女らと我々の戦力差は如何ともしがたい。真っ向からぶつかればどうあがいても勝利はない」
――……
――ざわざわざわ
沈黙
喧騒
さまざまな感情が入り乱れる
「しかし聞いてくれ。どうやら奴らは男に弱いそうだ。そこで私は思ったわけだ。この国の屈強な男たちならば戦場でもベッドの上でも奴らに悲鳴を上げさせられるのではないかと…な」
――ざわざわ
――くす
――ひそひそ
この冗談を受け止める民たちの感情はなんとも複雑だ
「そこで、一旦皆には国外へ避難してほしい。女子供を中心に、迅速にだ。疎開先であるフリーギアにはもう話はつけてある」
――ざわざわ
ところどころから上がる声
交じり入る罵声
仕方のない反応だ
「しかし勘違いしないでくれ。これは我々の勝利のために必要なことだ。私たちはけっして彼女らに尻尾を巻いて逃げるわけではない」
――……
小さくなる騒音
皆が私を信じてくれていることがわかる
何とも複雑な気分だ
「なぁに。あっという間の話だ。諸君には少しの間 呑気なフリーギアの民たちと触れ合って短い息抜きを楽しんでもらえればと思っている。向こうでの生活については我々が保証しよう。安心してくれ。この国は淫魔どもには負けはせん。なぜならこの国は、我々の物なのだから」
――パチパチ
――ざわざわ
まばらに上がる拍手
再び大きくなる喧騒
私はそれを聞きながら苦笑し、城の中へと戻った
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
部屋に戻り一息を吐く
廊下からはあわただしい兵たちの足音が聞こえてくる
「お、お疲れ様です…」
ニアが私の元へ駆け寄ってきた
その瞬間、緊張の糸が解ける
「ニアぁぁぁぁ!」
「わぷっ!」
私は仮面を脱ぎ捨て、素のままでニアに抱き着いた
「うぅ…ニア、にあぁぁぁ!ん〜かわいいなぁ〜。すべすべだなぁ〜」
「わ、ぎゃ。しぇ、シェルクさまぁ!?」
「ニアニアニアぁぁぁぁ!」
「うぷ。うむぅぅぅぅ。う…むぐぅぅぅぅ!(シェルクさま、苦しいです!む、むねがぁぁぁぁぁ!!)」
私の腕の中で小さなニアがもがく
その仕草がたまらなくかわいらしい
「ぷはっ!しぇ、シェルク様!?ど、どうなさったのですか!?」
「ふぅ…。いや、すまない。突然お前を抱きしめたくなった」
「シェルクさま…」
ニアが心配そうに眉をハの字にして私の傍へやってくる
「ご心配…なのですね」
「……ああ。正直に言うと、今にも逃げ出したい気持ちだ」
「しかし…」
「ああ。わかっているさ。コレは、私にしか出来ん事だからな」
私が笑いながら俯くと、ニアも悲しそうな顔をする
こやつは私の事をよく知ってくれている
私が王として、勇者としてかぶり続けている仮面の事も
その仮面を脱いだ私の事も
バラガスやカロリーヌとは長い付き合いだが、奴らはダメだ
私を仮面の上からしか見ていない
しかし、得てして“尊敬”や“敬意”とはそういうものだ
誰しもが被っている仮面
その上からその人を信用する心
それが悪いとは言わない
しかし、心を許せるかと言われればそれは違う
「シェルクさま…」
「ふふ。そんな顔をしてくれるな。大丈夫だ。お前がいてくれる。そして、バラガスやカロリーヌがいる。正直可能性は低いが、せいぜい頑張ってみるさ」
「しかし…。本当に魔王軍に…魔物相手に勝つことができるのでしょうか…」
「ああ
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