第三部 1話 炎鱗の女

――すぅすぅ

ほわほわ
柔らかい感触
私のしっぽだ
私のお気に入り
でも、私のそんなしっぽを誰かが哂う
鱗の代わりに羽毛のように軽い体毛の生えた私のしっぽ
振り回して敵を攻撃するには向かない
でも、そのかわりとってもふかふかできもちいいもん

『お前はカラスにでもなるつもりか?けがらわしい黒い体。一族の面汚しめ』

いいもん、■▲■ちゃんは『大きくて優しいお前にはよく似合ってるって』そう言ってくれるもん
そうだ。
私には■▲■ちゃんがいるもん。
あれ?
   ちゃんって誰だっけ?
私の大好きな人
私の大切な友達
あれ?
どうして?
どうして何も思い出せないの?
   ちゃんは白くて綺麗な…
あれ?
どうしてかな?
親友の顔が
大好きな人の顔が
思い出せない
私は…

「誰?」

――悪魔め

「違うよ!私は悪いことなんてしないよ」

――じゃあどうして封印なんかされてるんだ?

「これはほら…その…」

――わからないなら教えてやるよ
――お前は数えきれないくらいの人間を殺した
――私はお前たちに殺された
――許せない 私の子を返して!

「違う。私じゃないよ。“アレ”は私じゃないんだよ!」

――真っ黒な体に邪悪な魔力
――お前以外にそんな竜がいるものか
――殺してやる 殺してやる! 娘の痛みを 思い知れ!
――殺すよりも苦しい最期を
――忘却の封印 すべてを忘れる痛みを思い知れ

消える
消える
私の大切な思い
嫌だ

「わ、私は。私は悪魔じゃない!」




『お前が“悪魔”か。聞いていたものとずいぶんと違うな』

「私は悪魔じゃないよ…」

『………そうだな。悪魔が涙を流すはずがない』

「私はみんなと仲良くしたいだけなのに」

『…お前は変わっているな』

「え?」

『お前はそれほど大きな体を持っている。お前はそれほど強い力を持っている。それを使えばたちまちに奴らを付き従えることなど可能ではないか。なぜそうしない?』

「それって、みんなのことを私がいじめるってこと?」

『そうだ。この世界は力の強きものが弱きものを支配する。そしてお前や私のように強い力を持つ者は弱きを従え、導いてやらねばならないのだ。それが天命というものだ』

「むぅ…。あなたの言ってること。難しくてよくわからない」

『ふふ…。今にわかるさ』

「ん〜。ん〜?わからないよぅ」

『簡単な事だ。次に何かを言われたならばその爪で少し体を引き裂いてやればいい。お前の力ならば簡単にそれができる』

「そんなのだめだよ!」

『なぜだ?』

「爪で引っかかれると、すっごく、すっごく痛いんだよ?血だっていっぱい出ちゃう。それに、それに。心が…痛くて、いっぱい、いっぱい涙が出るんだよ」

『……お前は、優しいのだな』

「あなただって優しくなれるよ。私のために、私に話しかけてくれて。私、すっごく嬉しかったよ」

『違うさ。私はただ…。皆が悪魔と呼ぶものがどんなものか見に来ただけだ』

「…どこか、痛いの?」

『え?』

「あなた、すごく痛そうな顔してる」

『……ああ。少し、胸が』

「そっか。私もね、みんなにひどいこと言われて、ひとりになっちゃうとね、すっごくすっごく痛くなるの。それでね、涙が出てきて、止まらなくなるの」

『……お前と私はよく似ている』

「ふふ。だって、同じドラゴンじゃない」

『……そうだな。同じ、ドラゴンだからな』

「ふふ。変なの」

『ああ。そうだな…』

「どうしたの?」

『いや…。 お前、名前は何という?』

「私は……名前がないの。みんなは悪魔、ディアボロスって…」

『そうか。ずいぶんとお前に似合わぬ名前だ』

「え?」

『そうだ。ディアナ。ディアナというのはどうだ!?』

「ディアナ…」

『その漆黒の体に浮かぶ金色の瞳。お前は月のように美しい』

「ディアナ…。ふふ……うれしい。ありがとう」

そうか。
私は、ディアナ






――カタンカタン

馬車の車輪が小気味良い音を立てる
俺は薄く瞼を開ける

「うっ」

まぶしくてまた目を閉じる
ゆっくりと

「くあぁぁ」

目が覚めると、そこは馬車の上だった
何か夢を見ていた気がする
不思議な夢を

「もう夕暮れ時か…」
「ほっほ。旦那、よく眠れましたか?」

馬車を操るじいさんが笑いかけてくる

「ああ。日差しが気持ちよくって」
「それはよかった。しかし旦那。明日は雨でしょう。次の街からは幌付きの馬車に乗り換えた方がいい」
「雨?」
「はい。あそこの山に雲がかかっているのが見えるでしょ?ああいう日は大抵、山を越えるころには雨になります。次の街ならもっと多くの馬車も出ているでしょう。そこで幌付きの馬車を捜すといい」
「ほお。それはありがとう」

俺は素直に感心
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