OtherworlD

俺がそいつと出会ったのは半年前の事になる。
そいつは初めて会った時から面倒見がよく、まだ初心者だった俺に対してアドバイスや、クエストの手伝いなど、様々な事で世話を焼いてくれて、気が付けば俺はそいつの事をイルモンドの先輩であり、頼れる友達だと思うようになっていた。
ああ、そうか。言い忘れていた。そいつと出会ったのはイルモンド。つまり、そう。ネットゲームの中で、だ。
だから、あの日あいつがあんな事を言ってきたのは意外だったし、驚いた。


Dogs:くそ、ここ、抜けらんねぇ。


あ、この「Dogs」ってのは俺だ。俺が使ってるアバターの名前。え?何で複数形なのか?
別にいいだろ。なんか語呂が良かったんだよ。ただそれだけだ。


神:そこはヴァルキュリエ装備の大爆撃で破壊しないと通れないよ。右側から回り込んで。


で、この「神」ってのが“そいつ”。酷いアバターネームだとは俺も最初は思ったさ。でも、こいつは実際このゲームでも指折りの上級者らしくて、有名ギルドの集まりにも参加したりしているらしい。


Dogs:おk。合流した。
Dogs:で?どうすればいい?
神:ここで待ってればじきに来るよ。このエリアを通過するとき、彼は絶対この広場を通るんだ。
Dogs:了解。罠はいる?
神:まだ必要ない。体力が50%を切るとスタントラップの有効時間が1.5倍になるからね。
Dogs:じゃあ俺は背水陣発動して構えてるな。
神:そうだね。
神:さ…。そろそろ来るよ。


俺は「毒キノコS」を2個と、「毒キノコ」、そして解毒薬を飲んでHPを削り、スキル「背水陣」を発動させて軽銃弩を構える。
このスキルはHPが一定以下になると攻撃力が爆発的に上がるもので、短期決戦には持って来いだ。
「神」は俺とは違い、突撃槍を背負って、マップのやや左上で待機していた。
と、


――グオォォォォォォォン!!


モニター脇の2.1chスピーカーからけたたましい叫び声が聞こえて、モニターに大きな角を生やした獣が黒炎を纏って広場に飛び込んできた。


Dogs:うおっ!予想の倍はでかいぞ!?
神:ブレスの後に遠距離に向けて火球を飛ばしてくるから、それに気をつけて。ガンナーの装備だと即死だよ。
Dogs:こ、こえぇな…。
神:大丈夫。僕が「デコイ」を発動させてるから。たぶんこっちに引きつけられる。
Dogs:了解。じゃあ俺は撃ちまくるぜ。
神:角を重点的に狙ってね。角が2本とも折れたら、前足をお願い。
Dogs:了解だぜ、相棒。


登場イベントが終わり、戦闘が開始される。
このモンスターは「ディアボロ」。1級のクエストにしか登場しないモンスターで、イルモンド内では“門番”って呼ばれている。
こいつを倒す事が出来れば俺も晴れて上級者の仲間入りだ。
とはいっても、「神」がヘイトを稼いで引きつけつつ近接武器で戦闘してくれているおかげで、俺は遠距離から狙い撃ちすればいいだけなんだが…。
流石は「神」様だ。防御の低い囮装備で並のソルジャー以上の戦闘をこなして…。これは周囲も納得せざるを得ないわけだ。


Dogs:おk、角は折れたぜ。
神:了解。左周りに攻撃しつつ回避するから、前足を狙って。
Dogs:りょ〜かい!


言われたとおりに俺は前足を狙い、撃つ。時折ガンナー目掛けて飛んでくる火球を避けつつ撃つだけだから、下手な俺でも問題ない作業だ。
しかしまぁ、「ディアボロ」の奴、「神」を追いかけまわしてぐるぐると回っている。まるで自分の尻尾を追い掛けてクルクル回っているアホな犬みたいだ。


神:よし、4度目の怒り状態。そろそろマップの中央にスタントラップを仕掛けて。
Dogs:了解。


俺は武器を仕舞うと、アイテムのスタントラップを仕掛けに行く。


Dogs:おkだ。
神:了解。転倒したら背中に向けて撃ちまくってね。
Dogs:了解だぜ。


そう言うと、「神」は上手い具合に「ディアボロ」を誘導して罠に誘い込む。と、


――ギャオォォォン


「ディアボロ」の悲鳴が上がり、その巨体が倒れ、もがく。
俺は指示通り背中に回り込み、強化弾を撃ちまくる。その間に「神」は腹の方に回り込み、突撃槍の大技を叩き込む。


――キャイィィィン!!…

――てててて〜ん、てててて〜ん♪


最期の瞬間は驚くほど突然だった。
クエストクリアのメロディが流れて、「ディアボロ」の巨体が倒れ伏す。
リザルト画面に特級ソルジャーの称号が獲得された事が表示され、俺の中で何とも言えない感動が巻き起こった。
この半年、長かったもんだ。
俺はこの手のゲームを今まで一度もやった事がなかったし、前作から参入している人間の多いこのゲームでは正直、相手にもされないほど弱かった。
そんな中、こいつと出会い、こいつに指導さ
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