真理

エーテル灯が霧の中に道を浮かび上がらせる。
ここは世界中から科学者が集まる機械都市ルガンゼロ。
世界中の異質を集結したような街。
エーテル灯の列の先には規則正しく並んだ黄色い光が見える。
科学技術振興財団の研究施設ビルだ。
あの事故から…。あそこを追われてから、数年が経過していた。
私は地上階層の片隅に在る地下への階段から、第一階層へ降りる。
水酸化魔晶石機構を搭載した列車が青白い魔硝酸三水和物の煙を吐いて第三階層へ向かう。
トンネルの内壁には魔硝酸の結晶がずいぶん成長している。
列車が進むにつれ、その結晶の色が青から紫に変わっていく。
この辺りの岩盤は鉄分を含んでいるのだろう。
その結晶が赤くなるころ、第三階層についた。
そこから半日も地下水路船でいけばこの国の外に出る。
私はそこに探しに行くのだ。私の真理を。
私の生きる意味を。





真理を求めて





蒼王の都市、ティントゥに入って3日が過ぎた。
私はその中の冒険者ギルドに来ていた。
本当はこんな賊っぽい仕事はしたくないのだが、私にはお金がいる。
掲示板にずらりと並べられた依頼書。
ここに張られているのは緊急のもの、もしくは新着の依頼書だった。
緊急の仕事依頼は報酬が高く、魅力的ではあるが、たいていは傭兵の様な事をやらされ、戦争に加担させられるような内容が多い。
私はそう言う荒事が嫌いだ。

「フユ様。ジンジャエールをお持ちしました」
「ん。ありがと」

この無駄に背の高い女性はアルマ。
表情が常に凍りついているのは彼女が自動人形、ゴーレムだからだ。
正式名称はPXW-001。
彼女は通常のゴーレムとは違い、原動力こそ魔法的な物だが、そこに科学技術を導入することで、精液などという馬鹿げた燃料ではなく、水素イオン干渉電池の電力で長時間の稼働が可能となった。もちろん性能も桁違いに高い。
しかし、このPX‐001シリーズの最大の特徴は、その頭脳に在る。
このゴーレムは脳領域の拡張により、経験したことから学習し、プログラムを自ら書き換え、成長する。
つまり、知能を持っているのだ。
これは父の生涯最高にして最悪の発明だと言われた。
人形が人間にとって代わる事を人々は恐れた。
そして彼女はその研究段階で構築され、正規版より遥かな高性能を誇る実験機である
この旅で彼女にはとても世話になっている。
人間と違い、少し融通が利かない所があるが、父の思考データを学習しているおかげで、並のPXシリーズとは隔絶された知能の高さを持っている。
しかも、戦闘能力も非常に高いので旅の用心棒にもなる優れものだ。
何より、従順で、顔も身体もいい所が…ゲフンゲフン。

私が彼女からジンジャエールを受け取り、掲示板を眺めていると新着依頼の欄の、ある依頼に目が止まった。

〈遺跡発掘助手求む。性別年齢問わず、体力のある者、学のある者………〉

私はその依頼書を手に取ると、依頼料も確認せず、すぐさまギルドのカウンターに持っていく。
カウンターでは5台程の水晶式通信機が置かれ、その前で男が暇そうに腕杖を立てていた。

「おう、お嬢ちゃん。お子様ランチならここにはないよ?」
「…ロナウド…怒るわよ?」
「はは、こりゃ失礼。…………いや、俺が悪かったからその銃口降ろしてくんない?」

私は仕方なくアルマに銃を仕舞わせる。
彼はロナウド、このギルドの支部長でこの酒場のオーナーだ。
何度かこの街に来ているせいですっかり顔なじみだ。
今でも忘れはしない。
初めて会ったとき、こいつは私にこう言ったのだ。

『すみません。お客さん。ここは18歳未満の入店をお断りしてるんですよ』

当時、私は22だ!!
そんなレディーに向かってなんてことを言うんだか…。
確かに、背はまだ低いし、胸も…。
いや、でも、これからすっぱり成長するはず!!
だいたい、この外見は実験の失敗のせいなのよ。たぶん。
あれは魔物の遺伝子研究をしていた時のこと…。
サキュバスの血液から抽出したある酵素を培養して、それが製造するホルモンの研究をしていた。
その時、実験に使用していたラットが暴れて、ラットに注射するはずだったホルモンと補酵素を満載した注射針が私の腕に刺さった。
しかも不幸な事に、オートで注入されるタイプの注射器を使用していたため、中身が全部注射されてしまったのだ。
あの時私は14歳。
10年たった今でも外見は変わらない…。
拒絶反応や身的障害は出なかったのが不幸中の幸いだろうか。
しかし、いくつかの副作用的なものは確認している。
さらに悪い事には、研究は中断された為、そのホルモンの作用が未だにわかっていない。

「…そうよね。これは絶対アレのせいよ。それ以外に思いつかないもの。あのホルモンは絶対に成長因子に作用するものだったから…ぶつぶつ」

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