盲moka歌 ―とらわれうた―






.                      瞼の裏に 空を見て

.                      夢の中で 宙を舞う

.                     静寂の中に 歌を聞き

.                     暗闇の中で 君を見つける

















.                         盲moka歌
.                       〜とらわれうた〜

















美しい声がした
歌う様に 啼く様に
気づけば手は止まり
自然と耳が澄み
引き寄せられるように 歩き出す
見えない目を閉じ
耳で音を見て進む
長年住み続けているアトリエの中
いつも以上に静かな中
全ての物がその歌に聞き入る様に
微かに聞こえる自分の足音
そしてそれが物にぶつかり 反る音
それらが光りに代わるもの
それらは光の見えない目の中
それぞれ不思議な光を放ち
見えない筈の光景を像として結ぶ
その中に混じり合う声
混じり合う様で 包み込む様で
女性の声   だろうか
それにしては聞き覚えのない渋みを含み
苦味を持つ様な 甘い様な
まるで音を持つ日差しの様に
まるで温もりを持つ音の様に
声というには余りに多くの色を持ち
光というには余りにも感情を持ったそれ
まるで歌う事を楽しむ様に
まるで歌う事を恐れる様に
響く様に 擦り切れる様に
潮風と共に微かに届く波音
窓から差し込む光と共に吹き込む風音
それらを背負う様に それらに混じる様に


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――カラン

突然の不協和音

『っ!』

――バササ

羽音

それと共に歌は途切れ
声の主も去って行った
拾い上げたオカリナ

「…鳥……かな?…」

声を 歌を 思い出し
声の主を想像する

「いや…。確かに…人…の声だったけど……」

ほっ と
再び静寂に包まれたアトリエの中で
思い出す
あの不可思議な歌を 声を

「………可笑しなこともあるんだなぁ」
















カラン トン
トン カラリン

指先から伝わる感覚を手繰り
金属の管に響く微かな反響を見て

ギィ カラ
キィ キィ

まるで調和を奏でる様に
リズムが弾む様に

グィ グッ グッ

「よし、出来た」

こうして仕事をしている時間が一番落ち着いた
静かで簡素なアトリエ
光りを知らないが故に全ての物が全て あるべき場所に整って
自分もその中の一つであるかの様に
この机の上に並べられた工具や器具の一部であるかの様に
ただ違うのは工房の隅に造られた手作りのカウンター
そして その後ろに並べられた珈琲豆の粉の入った様々な形の瓶
そのスペースだけが この同じ屋根の下にあるアトリエの中では異彩
そこに自分が立つ時は工房の一部からルカという人間に変わる

「ふぅ…」

一息を吐き
ギィ 軋む音を立てる古い椅子から立ち上がる


――カラン


アトリエの表にある扉が開く
ドアに付いたベルがアトリエ中に音を反響させる

「ルカ〜?生きてる?」

それと共にあっけらかんとした声が

「ネイ?もう取りに来たの?」

カウンターの方に移動して
丸椅子に腰かける

「まぁ、それもあるわね。私のフルートをこんな所にずっと置いておいたらその内きのこでも生えちゃうわ。でも、今日はそれとは別の話」

カウンターの向かいにネイは腰かけため息交じりに言った

「生えないよ。ってか、直さないよ?そんな事言うんだったらさ」
「何よ。せっかく私が暇だから遊びに来てあげたのに」
「仕事は?」
「今日はオフ。でぇ〜明日から隣町で公演があって〜」

ネイはそう言いながら指を折る

「ずいぶんと急だね。僕の修理が間に合わなかったらどうするつもりだったのさ?」
「ってことは、間にあったのよね?」
「……まぁ、ね」
「さっすがぁ〜♪」

飽きれてため息も出ない
でも、そんな言動が彼女らしく

「ところで何飲むの?」
「 い つ も の ♪ 」
「青汁だっけ?」
「違うわっ!」

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