第一夜


侍女のシトリーさんに連れられて 廊下を歩く
赤い花を敷き詰めた様な真っ赤な緋毛氈の廊下
隅々まで装飾の施された絢爛豪華な内装
下級貴族の家の屋敷とは大違い
どこまで行っても驚く事ばかりで

「こちらでございます」

きぃ
食堂の扉が開く
うっ 息詰まる
中に 居らっしゃるんだ



「どうした?口に合わなかったか?」

そ、そんなことないです!
とってもおいしくて… その、感動しちゃいました

うそ
味なんて分からなかった
だって、目の前に公爵様が
怖い
でも
ちら 少しだけ目を
うっ 胸が痛む
私なんかが見てはいけない方だ
そう思った

「私に遠慮しているのか?」

そ、そんなこと…

その通りだ

「気にするな。今でこそ公爵などと呼ばれてはいるが、私も人間だ。脅える事はない」

はい ありがとうございます

そんな事、出来る筈がない
どうして公爵様はこんな私の事を…


結局
私からは公爵様に何もお話しできなかった








食事を終えて部屋に戻る

ふぅ

あまり食べていないのに お腹いっぱい
ほぅ 思い返して
公爵様のお言葉
思っていたより 怖い人じゃないのかもしれない
だって あんなに優しいお言葉
でも どうしてなんだろう
公爵様の声 あんなに冷たくて 悲しそう


「湯浴みの準備が出来ました」

はい

私は腰かけていたベッドから立ち上がり
シトリーさんが待っているお風呂へ

「お手を」

言われて 右手を差し出す

するり

脱がされていく 家から持ってきたドレス

あっ

思わず声が出た

「どうなさいました?」

どうしよう
私 こんなドレスしか持ってなくて
公爵様の前で
恥ずかしくなかったかしら

貴族とは名ばかりの家柄
用意したドレスもこのお屋敷には場違いな安物

「くすくす」

シトリーさんが笑って

「大丈夫ですよ。アイリ様はお美しいですから、どんなお召し物でも一級品に見えます」

う…

歯が浮くような思い
恥ずかしい

するり

肌着も脱がされて
家では自分で服は着替えていたし
お風呂も一人で入っていた
だから なんだか
人前で裸になるのって 恥ずかしい

「くすくす。 恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。真っ白な磁器の様にお美しい肌です」

うぅ…

余計に恥ずかしくなる



私が裸になって待っていると
シトリーさんも裸になってお風呂場へ
なんだか懐かしい
昔 こっそりと庶民の共同浴場に友達と一緒に行った時みたい
あの時は後でいっぱいしかられたっけ
そう思ったら 恥ずかしいのが少し楽になった

「アイリ様、こちらへ」

そう言って浴槽へ牽かれる

ふわ

不思議な甘い香りのするお風呂

「特別に取り寄せた薬草を使用した薬湯でございます。アイリ様をより美しくしてくれる事と思います」

へぇ
あ それはすごいですね

驚いて素になってしまった
また柔らかにシトリーさんが笑って
う 

ちゃぽ

導かれるまま お湯に入る
甘い香りが一層強くなって
じんわりと体が温まる

ふぅ


思わず息が漏れた

「私の前ではお気をお使いにならなくても結構ですよ」

あ ありがとうございます

「ふふ。敬語も必要ありません」

う あ、ありがと

「くすくす」

シトリーさんが優しく笑う
シトリーさん 良い人だな

「私はアイリ様付きの侍女です。アイリ様の物としてお使いになってもらって構いませんよ」

すご〜い
なんか、プロって言う感じですね

「くすくす」

あ ごめんなさい
あたりまえですよね えと

「じきに慣れますよ。そんなにお気を張らずに肩の力を抜いてください」

う …

「それとも、私は怖いですか?」

い、いいえ
シトリーさんは優しくて 綺麗で…
本当に私なんかの侍女で良いのでしょうか…

「ご謙遜なさらないでください。アイリ様はそこいらの貴族や姫では相手にならない程の美貌の持ち主です」

そ、それはさすがに言い過ぎです…

「ふふ。まぁ、じきにご自分でもお気づきになります」

そういってシトリーさんも浴槽に入ってきた
う ちょっと緊張する

「お身体を洗いますね」

は はい



シトリーさんが私の腕をとって

すぅ

シトリーさんの滑らかな指が私の腕を撫でる

タオルとかは使わないんですか?

「アイリ様のお肌を傷つけてはなりませんので、同じ人の肌で洗う様にしております」

へぇ…

すべすべとしたシトリーさんの手が私の肌を撫でて行く

ふぃ…

気持ちよくって思わずため息が漏れる
手のひらや指の間まで念入りに
それが堪らなく心地いい

「失礼します」

両の腕を洗い終わると今度は脚へ

すす

はふぅ…

はしたないと思いつつも
あまりの気持ちよさに息が漏れる

はぁ…はぁ…


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