序説


千年も私を封じておいて、餌達は勝手に私の前から姿を消した。
かつては水で溢れ、美しい緑と青い空が広がっていた私の箱庭は、ただの砂漠になっていた。
眠っていた間に世界は随分と様変わりしてしまったようだ。
この姿もそうだ。
私が力を入れれば身は裂け、骨が砕けてしまいそうな細く脆そうな身体。
世界に満ちているこのおかしな魔力のせいだろうか。
私の魔力を開放すればこんな魔力弾け飛ばす事も出来るだろうが…。
でも、そんな事をして何になるだろう。
もうここには私の愛する餌達は居ない。
私は餌達を愛し、あらゆる災厄から餌達を守ってきた。
その代わりに、私は餌達から贄を摂り食してきた。
何が不満だったのだろう?
ある日餌達は私を邪竜だと言い、私を千年もの間封じ込めた。
そして勝手に滅んでしまった。
美しかった私の箱庭。
無邪気に笑う餌達。
どれもみんな、私のお気に入りだったと言うのに。
これからどうしようか。
万古を掛けて創り上げた私の箱庭は僅か千年で滅んでしまった。

――ぐぅぅぅぅぅ…

腹が減った…。
そう言えば私は千年も餌を食べていないのか…。
私は随分と小さくなった真白い翼を広げてみる。
何とも情けない姿だ。
しかし、この身体ならばこの翼でも十分なのだろう。
私は砂の地を蹴り、飛び立った。

う…。不味い…。
私は黒こげになったウサギの肉を放り捨てた。
封印されていた影響で魔力の調節が効かなかったのか。
それともちゃんと皮を剥いでやらなかったのがいけなかったのか。
いや。
どれほどうまく調理しようと、餌達の肉の味には敵わないだろう。
餌の肉には心が詰まっている。
優しさのうまみ、酸味の効いた悲しみ、コクを添える苦しみ、味全体をまろやかに濁す憎しみ。
愛情などは少し甘ったるくて好きではないが、悪くは無い味だと思う時もあった。
そう言った物がめいっぱい詰まった肉に最後に私が恐怖と言うスパイスを利かせ、食す。
この上ない美味だった。
この餌はどんな味がするのだろうと想像しながら歯を立てる。
あの瞬間が忘れられない、私の楽しみの一つだった。

ああ、もう一度餌達に会いたい。
10/10/25 21:49更新 / ひつじ
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