宵闇の恋

雪の降る音が聞こえる
さらさら ざぁざぁ
風の舞う音が聞こえる
するする ひゅひゅ
雪の積る音が聞こえる
こんこん ぎゅぎゅ

私の身体縮んでく
爪が指を噛み締める様
瞼が目玉を踏み潰す様
私の身体軋んでく

雪の融ける音が聞こえる
ぽたぽた さぁさぁ
風の已む音が聞こえる
しんしん しぃしぃ
私の知らない歌が聞こえた
somnsomn bebe

私の身体拡がってく
指先から水に浸かる様
瞼を羽で撫でられる様
私の身体目覚めてく



おはよう 可愛い我が子



目を覚ますとそこには見慣れた暗闇が広がっていた。
荒い息を吐いて、汗をぬぐう。
パサパサとガラスを叩く雪の音。
私はベッドを出ると、部屋の隅に置かれた蓋を開けた。
私はその中に入り蓋を閉じた。
消して明ける事の無い闇の中で、私は眠る。





宵闇の恋





微かな雪の音で僕は目を覚ました。
昼の主が空を降り、夜の主が顔を窺わせる夕暮れ時。
僕は服を全て脱ぎ、部屋を出る。
そのまま廊下を歩き使用人用のシャワールームに入った。
暖かい流水に汗を流し腰まで伸びた髪を手櫛で伸ばし、整えていく。
水を止め、髪を根元から絞っていく。
髪から流れた水は腕を伝い肘からぽたぽたと垂れて行く。
ふと思い出す記憶、快楽。
首筋に触れ、そこをそっと撫でる。
柔らかい皮膚に浮き上がった2つの痣。
僕とご主人様の繋がり。
僕はくすくすと笑い、シャワールームを出る。
昨日のシーツが詰まれたその横でタオルケットを使って身体を乾かしていく。
細く小さい僕の身体。
十数年変わらない僕の身体。
執事服に着替え、髪を後ろでまとめる。
戸棚から小瓶を取り出し、1粒を飲み込む。
僕が屋敷にやって来た日の事を思い出す。
僕よりも背丈の低い女の子が自分より大きいような茶色い鞄を持ってやってきて、その中から取り出した小瓶。
ご主人様は女の子から説明を聞きながら頷き、分厚い札束を渡し、女の子から小瓶を受け取った。
僕はまだ慣れない執事服を着て、覚えたてのモップを使い、掃除をしていた。
その晩、ご主人様が脅える僕にその小瓶を渡した。
それから毎日、その薬を飲み続けている。
初めてその瓶を手に取ったときから変わらぬ僕の細い指。
初めて手に取った瓶と少しデザインの違う瓶に入った薬。
僕は軽くため息を吐いて瓶を戸棚に戻した。
1階に降り、厨房に入り朝食の支度を始める。
先週仕込をしたパン種がいい具合に醗酵している。
朝食はごく軽いものを好むご主人様はパンと果実、そして1杯のチョコレート、または濃いコーヒーを摂る。
僕は窯を閉じ、時計を見る。
窓の外が闇に包まれている。
僕は2階のご主人様の寝室へと上がった。
4度ドアを叩く。
返事はない。
僕はドアを開けて中を窺う。
空のベッド、乱れたシーツ。
部屋の隅を見れば大きな棺とその蓋からはみ出したドレスの裾。

「今日はそちらでお眠りでしたか…」

僕は棺をトントントントンと叩き、蓋を開けた。
金色のふさふさとした髪に包まれた人形のように美しい寝顔。
僕は1度目を強く閉じ、呼吸をする。

「ご主人様。おはようございます」

ぴくぴくと動く瞼。
宝珠のような唇が2度3度動き、紅玉の様な瞳に光が燈る。

「ベリル…」
「昨夜は些か寝苦しかったですか?」
「…いや、少し悪い夢を」
「朝食にいたしますか?それともお先にお風呂を?」
「…血が欲しい」
「すぐにお持ちいたします」

僕は急ぎ地下の貯蔵庫に向かう。
ワインセラーを通り過ぎ、地下のさらに奥へと歩む。
その部屋に入ったとたん、身を裂くような真冬の寒さが霧のように流れ込んでくる。
部屋の中央には特殊な魔石がくるくると回転している。
その部屋の壁面に並んだ棚から水差しのようなガラスの容器を取り出す。
中には汚れを知らぬ処女より抽出した美しい血が入っている。
しかし、いくらこの部屋に保存してあるとはいえ、血はすぐに劣化してしまう。
故に新しい娘から新たに血を得る必要がある。
不思議なことに、血というのはその血を流した人間が生きている間は劣化の進行が遅いが、死んだとたんにダメになってしまう。
だからここでは娘を生かして飼い、ご主人様がその味に飽きれば新しい娘を買って、古い者をまた売り払う。
面倒ではあるが、そうしなければ吸血鬼であるご主人様に吸血されたものは、吸血鬼となってしまう恐れがある。
個人差はあるが、人間の女の中には微量であろうとも体内に入った魔力を元に自然の中から魔力を蓄え、自ら魔物へと変貌する者もいるのだ。
他の魔物であるならばそれはかまわない。
しかしながら、吸血鬼、ヴァンパイアは貴族であり、その力は絶対不可侵なのだ。
貴族たる資格のない女から貴族が出たとなればそれは血統全体に泥を塗ることとなる。
故に金も手間もかか
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