夢すらも枯れゆく砂漠の中、私はピラミッドの頂点に立つ。
昼夜の寒暖差で揺れ動く空気が全天の星空を揺るがせ、月すらも幻想であるかのように揺らぐ。
此処は夢の都市。
かつては昏々と湧き出るオアシスがあり、何千という商人が。何万という人が行き交った街。
商人はこの街に店を構えることを夢見て。
少女は丘の上に聳える王宮に住むことを夢に見た。
此処は夢の都。
今はただ乾いた風と見渡す限りの白い砂が全てを埋め尽くし、何人たりとて足を踏み入れることのない死の街。
夢を手にした商人は、いつしか枯れたオアシスを捨て、河沿いの王の都に移り住む。
夢から覚めた少女は愛する者に手を引かれ、この街を去る。
此処は夢の都。
夢から覚めた、夢の都。
夢見る王墓
目覚めの時。
鮮明さを取り戻す現実の中、私は虚空に手をかざす。
虚ろな顔のマミーたちが私に衣装を着せていく。
肌を滑るような感触と共にふわりと素肌に触れる着なれた感触。
2体のマミーが金粉を指につけ、私の身体に化粧を施していく。
最後に、マミー達が跪き、最後の一人が私に宝剣を掲げ、膝をついた。
私はそれを受け取り腰に差すと、マミー達を下がらせた。
私は手を開き、それを見る。
何千年も変わらぬ狗の手。
私は軽く頭を振り、現実に頭を戻す。
静まり返った石の廊下を歩く。
何千年も変わらぬ光景。
変わらぬ静寂。
いっそ、墓荒しでも来てくれればこの鬱屈した気持ちは晴れるのだろうか。
陛下の眠る扉の前に礼をして、石造りの扉を開く。
この扉も随分と時が経ち、金の装飾は所々に剥げ、角は丸みを帯びている。
いや、この扉だけではない。
この墓全体があのころとはずいぶんと変わっていた。
今では墓全体の半分以上が砂に埋まり、天辺近くの非常通路以外の入り口は閉ざされてしまった。
この墓の中で変わらぬ者は私だけ。
私だけが、この時間から置き去りにされているような錯覚を覚える。
陛下の前に立ち、傅く。
「陛下。今日も謹んで御身を守護させていただきます」
「………」
棺に取り付けられた黄金の仮面は表情を変えぬまま。
私もまた、表情を崩さぬように陛下の寝室を後にした。
来た道とは反対の廊下、私はその先の行き止まりの壁に、手を触れ、詠唱する。
壁が切り抜かれ、奥の部屋の入り口が開く。
真っ暗で何もない小部屋。
私は短い詠唱をして、明かりを灯す。
部屋全体に明かりが満ち、中央に置かれた台座が現れる。
私はそこに手を触れる。
建物全体、地下の空洞のすべてに至るまでの情報が流れ込んでくる。
異常は見受けられない。
「ん?…」
私は台座から手を放す。
「…あの馬鹿猫め」
私はため息をつくと、脳裏に示される赤い点に向かって歩き始めた。
寒く真っ暗な部屋の中でいつも通り目を覚ます。
あたしは一度大きく伸びをする。
プルプルと尻尾の先まで力を込めて、抜いていく。
「ふはぁ〜〜」
右手の肉球を唇に当てて、大きな欠伸をする。
「ありゃま。服が皺になっちゃった。ま、いっか。どうせだれも来ないだろうしにゃ〜」
あたしはお尻の下で皺くちゃになった服を見下ろして独り言をつぶやいた。
自慢の腕っ節を出して、肘のあたりから毛づくろいを始める。
手足が終わると、身体の方も。
人間と変わらない弱い肌にジャリジャリとしたあたしの舌が触れる。
むずがゆい感じ。
身体をさらに丸めて大事なところも。
「ふみゃ〜。あたしってば、綺麗好きね」
そのあとでお尻に敷いていた服を着ていく。
そして、胸当てを着る前に、クンクンとにおいをかいでみる。
…あと2日は大丈夫そうだにゃ〜。
「また後でマリクんとこのマミーに洗濯でも頼もうかにゃ〜?…まぁ、覚えてたらでいっか」
ベッドから飛び降りて、出口に向かう。
扉を開けると早朝の砂漠の冷たい空気が薄着の身体に突き刺さる。
背中を伝ってぶるぶると尻尾の先まで震えが伝わる。
「さっみぃぃ!!この毛、もっとお腹の方まで生えてくれないかにゃ〜?」
あたしはひんやりとした砂の感触を足の裏の肉球で感じながら、あいつの眠る墓の方に歩いて行き、一本のオベリスクの前までくる。
「あ、ちょちょ〜っい!っと」
魔法で入り口を開いて、地下に続くかくし通路に入っていく。
「あ!忘れてた〜。戸締り戸締りぃ〜っと」
最後に魔法を唱えて私のねぐらの入口を砂で覆い隠す。
「って、言っても盗られる物なんてないんだけどねぇ〜♪ っと。さぁって、今日は何して遊ぼうかにゃ〜」
まぁ、って言ってもやることは決まってるんだけどにゃ〜。
「くひひ。今日はマリクの寝室大探索〜! エッチな本とかエッチなおもちゃをあさってやるのぜ!」
「にゃにゃ…。この箱、開かないのにゃ。さてはこの中身、きっとエッチなおもちゃが
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