小さい頃俺に母が読み聞かせてくれた英雄譚。
その勇者はかつてない巨大な力を持つ魔王に立ち向かっていった。
何もかもが子供だましのお伽話だと知るのに20年かかった。
この世界が公平でないということは知っていた。
知っていたつもりだった。
でも思い知ったことはなかった。
思い知ったのは23の時だった。
納得するのに更に5年がかかった。
そして納得すると同時にすべてを諦めた。
今では立派な外道になった。
でも周りを見渡してみろ、ほら、目につくだけでも5人の仲間がいる。
皆俺と同じだ。
きっかけは違うかもしれない。
国のためにと立ち上がった者、女のために戦った者、自らの強さを確かめたいと思った者、家族のために金を稼ごうと思った者、そして英雄を夢見た者。
しかし皆、少なくともここにいる5人はそれが叶わなかった。
軍で自分の弱さを知り、組織のもろさを知り、矮小で無力な己を知り、そして傭兵に身を落とし、そして最後には盗賊になった。
人を殺すことへの躊躇いは初めての戦で捨てた。
戦いの中に正義を持ち出す心は傭兵時代に捨てた。
道義心や善意、常識の類は盗賊に堕ちるときに捨てた。
そして今じゃ女子供をいたぶることにも罪悪感は抱かなくなった。
人の心はこんなにも強い。
たやすく麻痺して外道に落ちる。
外道になりきれない弱い奴らは飢えて死ぬか、罪人として討伐される。
そして俺達はそうはなっていない。
俺達は生き残っている。
強いから生き残っている。
今更目指していた強さとの天と地ほどの落差なんて気にしない。
それでも、そんな俺達でもいつでも覚悟はしているつもりだった。
いつか自分たちよりも強い奴らが現れて、そいつが俺らを食い潰すことは覚悟していた。
いや、そのはずだった。
しかし、この光景はどうだろうか。
目の前では今、また一人仲間が斬られた。
いや、斬られたというよりは叩き潰されたといったほうが良いのかもしれない。
あんな巨大な剣は見たことがない。
あんなに禍々しく歪んだ剣は見たことがない。
斧のようで鎌のようで、それでいてやはり剣であるようで。
その刀身は巨大で、仲間の中で一番巨大な男の背丈程もあり、その分厚さはギロチンのようだ。
そして斧のように突き出した大きく湾曲した刃は人を押しつぶす戦斧のようであり、そして死神の鎌のようでもある。
どんな武器にも属さない異様な形状、そしてどの武器の利点も生かしていない不格好な形は行き場のない暴力が具現化したようにも見える。
これを持つのが禍々しい魔物なら良かったのだろう。
角を生やし、翼を生やし、獣のように毛の生えた見難いバケモノだったなら良かったのだろう。
まさに見てくれ通りの恐怖の具現。
それだったら幾分か心は落ち着いていただろう。
それがどうだ。
その禍々しい獲物を片手で軽々と操っている人物の姿は。
いや、あんなものを軽々と扱える時点で人ではない、そして、その恍惚とした笑みや、グチョリと歩く度に水音を響かせる湿った股間は現代の魔物そのものだ。
しかしその艶めかしい笑みに、そして幼い体つきにまとわりつく気配は魔物ですらない。
「あはははは。あぁ〜。きもちいぃ〜気持ち良いよう…。人間の魔力ってこんなに美味しくて気持ちいいなんて知らなかった。人を斬ることがこんなに爽快で気持ちいいものだなんて知らなかった。オナニーなんかよりもずっと気持ちいいよね。ねぇ、おにいちゃんもそう思うでしょ?」
その幼い体格に相応の柔らかそうな太ももにぬらりと垂れる粘液を左手の薬指ですくい、まるで血を舐めるように舐めとる少女。
しかし可愛らしいといった様子は全く無く、明らかに発情し、いやらしい笑みを浮かべているにもかかわらず、そそられるということは全く無い。
「あれぇ?私に始めてセックスを教えてくれたのはおにいちゃんだったよねぇ?」
一瞬、何のことかと思った。
しかし、そのバケモノの顔を見て、穴が空くほどに見つめてやっとわかった。
髪の色は真っ黒になり、肌の色も血の気が引いて青白くなっているが。ああ、そうか。
確かに昨晩俺が犯した少女だった。
その身体を舐め回しても、そして処女を奪ってやっても、まったくもって反応が薄かったせいで苛立ちを拳に乗せて暴力を振るったのを思い出した。
今思えばこの化物はあの時から少し普通ではなかったのだ。
自らの身体を犯されても怯えることはなかった。
むしろ不思議そうに眺めて俺を見つめていた。
その視線が気に食わなかった。
何も考えていないようなその表情が気に食わなかった。
だから殴った。殴り尽くした。
そうしてやっとのことで悲鳴をあげていたが、それも長くは続かなかった。
しばらくするともう痛みを感じなくなったのか、途端にまた声もあげなくなった。
あの時は泣き叫ぶことにも疲れ果てていたのかと思ったが、
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