我流転成

身体中のあちこちが熱い。
まるでひどい風邪をひいたみたいに頭が痛い。
なにか考えようとしても辛い。
悲鳴を上げるのも面倒くさい。
痛みに少しずつ慣れてくる。

「――っ!」

頭は慣れても身体はやっぱり動かない。
水の中みたいな景色の中で男の人が私に何か言ってる。
焚き火の光で真っ赤に燃える男の人の顔はとても恐ろしく浮かんでいる。
でも、もうむり…。
もう、いいよね?


まだ生きてた。
少しだけ、眠ってたみたい。
いつの間にか静かになってた。
真っ暗な場所。
静かすぎて、

――ヒュ〜…ヒュ〜

胸に穴が空いたみたいな呼吸をして。
やたらと自分の息だけが大きく聞こえる。

“ちっ。覚えておれよ…”

頭のなかに声が聞こえた。
少し掠れたような、でも、綺麗な女の人の声。
磨りガラスのような声。

「…ん……」

ゆっくり、まぶたを開く。
空気が針みたいに刺さってくる。
でも、なんとか我慢して、
見えた。

「…きれい……」

闇に溶けるように真っ黒な刀身。
なのに光るように輝いて。
全く歪みの無いように真っすぐ伸びて。
細いのにとても強そうな、剣。
鍔もない、柄は刀身と同じ黒い金属で出来てる。

“生きたいか?”

また。
あの女の人の声。
強くて、綺麗な、弱くて何も出来ない私とは正反対な女の人の声。

”生きたいのか、と聞いている”

さっきよりも強く聞こえて。

「まぁ、いっか」

無意識に声を出してた。

“手を伸ばせ、ワシを取れ”

あ、呼んでる。
行かなきゃ…。
手を伸ばして、あぁ、やっと、届く…。

「…っ!?」

指先に鈍い痛み、次の瞬間熱くなって、ジクジクと。
痛みの熱が少しずつ抜けていく、一緒に体の力も抜けて。
だから、最初は何かわからなかった。
突然雷が落ちたみたいだった。

「っ!……っ!!」

体が勝手に飛び跳ねて。
息もできない。
私、どうなっちゃったの?!

「…っぁ!……んぁっっ!」

声を出そうとしても、喉が引きつってうまく声にならない。
流れ込んできた、私の中に、溢れるような熱さが。
心臓がドクドク、ゆっくりと、しびれたみたいになって。
そのしびれが全身に広がっていく。

「…んっ。あぁ!?…んっ…あ…くぅ……」

身体中がしびれて変にふわふわした心地。
なのに、身体のあちこちにかぁっと燃えるような感覚。
目の前で剥がれた爪が治っていく。
ううん、私の怪我したところ、ぜんぶが治っていく。
でも、変。
治るところが熱くてジクジクする。
治っていく時に身体の中で火が点いたみたいに。
まるでしびれた足を突っついた時みたいに。

「…んふ…んあっ……ああ……」

これ…。気持ちいい。
しびれたところからゆっくりと熱が引いていく。
ドキドキして喉から飛び出しそうだった心臓が、少しずつ落ち着いてくる。

「…ふぅ〜…んぁっっ……」

でも…。

もっとぉ…。

欲しい。
この気持ち良いの。もっと欲しい。

――くちゅ

体を起こして、剣を求める。
ああ、おへその下のところだけまだくすぶってる。
ドクン、ドクンって心臓に合わせてしびれる。
一緒に、心臓もしびれる、
ああ、収まってしまう、もっと欲しいのに。
また気持ち良いの欲しい。

「…あぁ…。がまんできな…」

私、剣を持って、一気に心臓に突き刺した。

“んひゃあぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!”

耳がキンってなるぐらい叫んで、なのに、声は出なくて、その代わりに頭がしびれた。
剣が突き刺さったはずなのに、心臓ドクドク速くなって。
痛みはない、血も出ない。それどころか流れ込んでくる。
だめ、剣から流れ込んでくる。
さっきの熱いしびれが。
心臓から全身に広がる。
体の力が抜けて、まるでひどい風邪にかかったみたいに身体中熱い。
頭、ぼぅっとして。

――しょわぁぁぁぁぁぁ

あ、おしっこ漏れちゃった。
あはぁ。おしっこきもちちぃ。
ゆっくりと、しびれを体になじませて。
まだ全身熱いけど、少しずつ。

――ドクン、ドクン

心臓に感じる。
私以外の鼓動。
あ、このドクドク。この剣が。
気がついたら、剣を握った両手と、突き刺さった胸に剣が融けて絡みついてた。
まるできのこが糸を張るみたいに、少しずつ伸びて。

”んふぅっ!?な、なんだこれは!?わ、ワシはどうなっておるのじゃ!?”

あ、声。
剣から伸びた糸が身体中を覆って、私に繋がっていく。
繋がったところが新しい血管みたいに、熱いものが流れてくる。

ふひぅぅ…。な、流れる…。流れでるぅ。ワシの…魔力がぁ…。

流れてきた熱いものは全身に溶けて広がる。
そして流れこんでくる。
ワシの身体の中に。
私の身体の気持ち良いのが。

――クチュ

んふぅ…。

おまた、ぬるぬるしてる。
クチュ
ここ、に入れたら…。
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