パライソ

大陸の北西に浮かぶ小さな島国。
かつては豊かな自然と恵まれた気候、穏やかな海に囲まれ、大西洋の宝石と謳われた地だった。
しかし、その美しい宝石は、戦火に沈むこととなった。
原因は島の大部分を占める深い森林の奥で発見されたたった一欠片の石だった。
その白く輝く石はその大きさにそぐわない莫大な魔力を秘めた鉱石だった。
そしてその島の地下にはその鉱石が含まれた地層が眠っていることがわかった。
魔力資源に頼っていた人間たちを狂わせるには十分すぎるほどの魅力に充ちた発見。
それがこの島を滅ぼした原因。人間たちを狂わせた魔力の源だった。
小さなその国は一瞬のうちに滅ぼされ、港の美しい街並みは焼け焦げた石積みの壁を残すのみとなり、島の姿は僅か数年で別世界のものとなってしまった。
やがて戦火が消えた時、その島を手にしたのは北の大国だった。
彼らは莫大な犠牲と引き換えに手に入れた眩い宝石にすぐさま齧り付く。
鉱石は瞬く間に掘り出され、かつては宝として大切にされた自然は半年と経たず破壊された。
しかし、そんな理不尽な暴力に自然は圧倒的な力で氾濫を起こした。
突如として島の木々は暴力的な成長を興し、坑道を固く閉ざした。
驚いた人間たちは最初、剣で対抗した。
しかし、いくら木々を薙ぎ払おうとも木々の成長がそれを飲み込み、人々を坑道から遠ざけた。
次に人間は人類最初の発明と言われる火をもって自然に挑む。
しかし、いくら焼き払おうとも火が消えると、灰の下から木々は芽吹き、数時間と経たずして以前より深い森を作り上げた。
そして、森はさらなる牙を持って人間への反逆を開始した。
再生した森はまるで動物のように蠢き、積極的に人間に襲いかかってきたのだ。
人と森の争いは長化し、人は撤退を余儀なくされた。
その後も何度も人は森に挑み続けたが、とうとう森に打ち勝つ事はできなかった。
そうして、北の大国はその島の開発にかける資金を失い、その後急速に国力は衰え、崩壊した。
人がいなくなると、森は瞬く間に島全体を深く深く包み込み、緑の壁としてその後も人を遠ざけ続けた。

これが、かの有名な悪魔の島、カタストロフの由来だ。
その後300年が経ち、人のいなくなったその島の研究は遠く離れた大陸で密かに続けられ、その謎は解明された。
森の爆発的な繁殖は人間が採掘のためにその鉱石”ミステリウム”を地表に露出したがために、その鉱石の持つ莫大な魔力が島の木々に膨大な生命を与えたために起こった。
森が人に襲いかかってきた原因もまた、人が森の木々を焼き払ったがために、森の木々が一度失われ、その後森はミステリウムから吸い上げた魔力のみで成長したために変異し、半魔物化したために起こった現象であった。
科学の進歩によって明らかにされたこれらの現象は、我々人類に痛烈な教訓を残した。
人は人の行いによって滅び、滅びに向かう人を動かすのはただひとつ、欲望である。




聖教の教本に乗せられた記述だ。

俺は監獄で読んだその内容を思い出しながら、海上の小舟で漂っていた。
小舟は船尾に取り付けられた魔石によって動き、確実に俺を悪魔の島へと運んでいく。
昨日執行された俺に対する刑、それは島流しだった。
そして、行き先は悪魔の島、カタストロフ。
その名の通り、破滅と終焉を意味する島だ。
教本にある通り、島の自然は人間を殺すために蠢き、島の動植物は全て凶器と化して島に上陸したものを襲うそうだ。
俺の捕まった国では最も重い刑だった。
俺は島に着くまで解けることのない拘束陣を破壊しようと幾度も試みたが、高位の魔術師達によって施されたそれはびくともしなかった。
俺一人を載せた小舟は俺の棺となって俺を悪魔の島へと正確に運んでいく。
小舟に施された高等な魔術式は俺が島につくと同時に小舟を破壊し、俺が島から出る手段を断つ。
これまでこの刑によって幾人かの重罪人が処刑されてきた。
大陸から船で2日ほどしか離れていないこの島から帰ったものはこの300年で一人もいない。
それ故に島の実態を知るものはいないが、恐れが噂を呼び、この刑により島流しをされた者は、島の悪魔たちによって生きたまま身体を引き裂かれ、地獄の苦痛とともに息絶えると言われる。
船に乗せられる時にはさすがの俺も恐怖した。
恐れのあまり執行者に声を荒らげ叫び続けた。
しかし、海へ出てしまって1日半が経った今となっては、逆に落ち着きを取り戻していた。
どうせもう助からない。
その考えが、俺の思考を束ねてくれていた。
今まで幾度と無く命の危険は感じたし、数えきれない死線をくぐり抜けてきた。
そんな時でも俺は生きて帰り、その経験は俺に自信と勇気を与えてくれていた。
そう。俺は今まで、死を本当の意味で覚悟することなんてなかった。
でも、今回だけは違う。
圧倒的に違う。
絶望の
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