「ありえないわ…」
ありえないわありえないわありえないわありえないわありえないわありえないわありえないわありえないわありえないわありえないわありえないわありえないわ…
ロッテちん?さっきからちょっとうるさいお?
「ありえないわ。こんなことって。あるはずないわ」
なんじゃ?何がそんなにありえないのじゃ?
まるで明日空から月が降ってくるみたいな慌てっぷりだぬ。いったいどったのよ?
「そ、そんな、言えるわけが…」
言えないようなこと?
ん?もしかして、あたしらが一瞬、あの勇者()にときめいたことか?
「ときめ…。あ、ああ…。あばばばばばばばばばばばばばばばば!!」
――ガンガンガンガンガン
のわ!痛い、痛いのじゃ!!やめるのじゃ!そんなに勢い良く柱に頭を打ち付けるでないのじゃ!!
ちょ、ほんとにやめてよね。マジで痛いって、これ、洒落になってないっての。
んがぁぁぁ〜〜!!もう!うるさぁい!!
――がぶ
ぅゎ…。ロド公がロッテの頭を丸呑みに…。
んむぅっ!?むぐ、うむぅ!?
ロドが野生の一面を見せたな…。てっきり牙も爪も抜け落ちた、ゆるキャラだとばかり思ってたのぜ。
ぷはっ!?はぁ…はぁ…何が起こったの!?突然世界が真っ暗に…そして頭が生暖かいものに包まれて、首筋に鋭い牙が迫っていた気がするわ。
うん。まさにその通りのことが起きてたね。まごうことなき奇跡体験だね。
落ち着いたかの?
え?あ、ああ。ごめんなさい。私としたことが、ちょっと正気を失っていたわ。
いやぁ〜。ロッテちんの正気って、元からあんまし…。
シュムさん、何か?
あい、いや。いつもどおり、狂気な正気ですね。
ちゅか、別にわし等ももうぼちぼちいい年なんじゃし、そろそろ恋の1つや2つ、してもいいと思うのじゃ。
うんうん。そのとおりやね。
いや、でも、相手、アレよ?
私達は視界を共有して部屋のベッドの方を見た。
「そんな。勝てない…。戦う意味は、ない?俺が、俺が負けたのか?じゃあ俺は一体何者だったんだ?…俺は…誰…なんだ…」
幼児退行から復活した勇者()が一人でブツブツと絶望的な表情を浮かべて自問自答していた。
いや、でも、事実あたしら、アレにときめいちゃったわけですしおすし。
うむ。ロリのわしから見てもあの純真無垢な笑顔は可愛かったのじゃ。
いや、待って。そうよ。別に私とは限らないわよね?私達、確かに身体は共有してるけど、人格は…。
いや、でもね、ロッテちん。あたしらって、こう見えて心は一つなんよ。
うむ。残念ながら、表層である人格は分離しておるが、心の根っこはつながっておるのじゃ。つまり…。
そんな、うそ、嘘よ…。
悲しいけどこれ、現実なのよね…。
ちなみに付け加えると、死んでから時間の経ったわし等よりも、この身体と心はロッテのものが強く反映されておるそうじゃ。
ウソダドンドコドーン!!!
で、でもほら、今は全然ときめかないわ。きっとアレも何かの偶然よ。
ん〜、じゃ。ほら。試してみようぜ。
「よっと…。ちょっくら身体借りるお」
あ、ちょっと。待って!!
「お〜い。勇者?ダイジョブかい?」
私が止める間もなくシュムさんが私達の体で勇者()に話しかけた。
――ドクンドクン
鼓動が大きくなる。
いや、でも、これはきっと別の意味での動揺であって…。
「うう。おねえさん。俺、おれぇ…」
――ひしっ
――キュン
勇者()が涙目で私に抱きついた瞬間、私の頭は2つの意味で真っ白になった。
「うんうん。よしよし。気にしなさんなって。ご主人、アレ、ああ見えても並の冒険者じゃ手も足も出ないほどの上位の魔物だかんね。別に気にする必要ないって」
――どくんどくんどくんどくん
シュムさんが優しく話しかける間にも私の、私達の鼓動は加速していく。
どう…しよう。
こんなの、信じたくない。
だけど…。
「俺、今までずっと自分のこと、勇者だって、そう思ってたのに、もう、もう。何も、信じられないよ…」
少年の身体からぬくもりが伝わる。
まだまだ華奢で、小柄な。
だけど、私よりもがっしりとして、たくましい身体。
そんなことを考えてて、
ほら。代わってやるよ。
――ぽん
不意に、宙に浮くような感覚がして、私の心が身体とリンクする。
シュムさん、逃げないでよ…。
お互い様だろ。
――ポム
私の心が身体に入り、感覚がよりリアルに。
「あ、えっと、その」
「ん?おねえさん?」
少しオロオロしている私に気づいたのか、少年は体を離し、疑問形の顔を向けた。
「おねえさん。もしかして、あの時のおねえさん?」
あの時、とは、数時間前、幼児退行していたこの子を介護してあげた時を指すのだろうか
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