彼のやってきた日

俺はアスティ=フォン=ラッセル=ヴェルクムント=カイザー。
勇者だ。
勇者といっても、正式な勇者ではない。
聖教府は俺を田舎者だと相手にしてくれなかった。
クソ!
機関の手がここまで伸びているとは…。
もはや聖教府は機関によって乗っ取られているに違いない。
俺は世界の危機を感じながらも、世界を救うために立ち上がった。
まったく、俺らしくないぜ。
世界を救うなんて、よ。
しかし、もはや俺しか世界を救える人間はいない。
俺は魔剣ジークムントを携え今日も世界を駆ける。

「あ〜くん。何してるの?」

なっ!?
危ない!
伏せろ!!

「え?え?なに?何かいるの!?」

危ないところだぜ。
サリー、俺に近寄るなといっただろ!
俺は機関に見張られている。
お前まで危険な目にあったら俺は…俺は!

「え?でも、ママがご飯できたからあ〜くん呼んできてって」

……もうチョットしたら行くって言っといて。

「あい。冷めないうちに来てね」















ハッピーバースデイ














俺は15になり、親の心配を押し切り村を出た。
何分危険な旅になる。
おやじは俺を止めようとメテオナックル(げんこつ)で俺に挑んできたが、その程度で怯む俺ではない。
とはいえ、おやじはああ見えても元勇者(農夫)、老体とはいえ、ヤツの監視をかいくぐるのは容易ではなかった。
俺はバックヤード(納屋)からおやじが危険だから触るなと隠していた魔剣、ヴェルクムント(ナタ)を持ち出し、家を出た。

あの日から戦いの日々が始まった。
全く、機関め、手回しの早いことだ。
俺は人喰いスライムや殺人ゴブリンを相手に歴戦を重ね、見事勝利してきた。
だが俺は、どんな危険なクエストであろうとも、報酬は最低額で済ませている。
俺は謙虚な勇者だ。
報酬額が高いクエストを受けないのもそのためだ。
俺はなけなしの資金で何とか買った魔の鎧カースアーマー(50%off)と、とある酒場で戦友から託された(新しいのを買ったのでもらった)真魔剣イビルブリンガーを手に、より強い奴と戦うことを決めた。

そして、俺はとある情報筋からヤツの話を聞いた。
邪悪なる魔女。
性なる魔女。
名前を呼んではいけないあの人。
弱き民たちは恐れ、皆口に出すことをためらったが、俺は書の迷宮(国立図書館)の古書からそいつのことを調べあげた。
俺が倒すべきそいつの名前は、サビエリ。
かつて、古の戦姫シャルロッテが征伐したと言われているが、そんなものは機関の流した偽情報にすぎないことは俺の洞察力を持ってすれば看破できないわけはない。
事実、戦姫シャルロッテを闇に葬ったのは機関の仕業だ。
戦姫と謳われたシャルロッテは悲しいことに機関の手によって魔女として謂れ無き糾弾を受け、無残な死を遂げた。
死体が残っていないのが何よりの証拠だ。
そしてその黒幕は魔女サビエリ。
戦姫シャルロッテによって殺されかけた魔女は機関の力を借りてシャルロッテを貶め、葬り去ったのだ。
まったく、歴史というやつは困る。
こうして真の闇と戦う者達は歴史の闇の中で葬り去られてしまうのだ。
俺が変えなければならない。
この世界を。
この世界に正しい姿を取り戻すために!
おっと。
俺としたことが、らしくない言葉を吐いてしまったぜ。
だが仕方がない。
世界を救うとしよう。



「ねぇねぇ。ロッテちん。この子何いってんの?」
「え。いや、ちょっと私に聞かれても…」
「あるじ様よ。こやつには幻遊病の治療薬が有効じゃと思うのじゃ」
「あらあら。困ったわねぇ。今在庫切らしちゃってるわ」

ふ。
済まないな。
高次元不可視領域の話は一般人には理解できなかったか。

――イラ

「ご主人様。こいつ殺してもいいでしょうか?」
「あら、ダメよ。どうせ殺すなら、今まで使ってなかったお薬を試してからじゃないと、もったいないわ」
「そぉだお。今どきこんなところに来る冒険者なんて少ないかんね。ロッテちんも知ってるっしょ?身元不明の死体になってもいいやつって、案外少ないんだお?」
「その点コヤツはうってつけなのじゃ。まともなギルドにも登録ないし、何より保険に入ってないのじゃ」
「でも、ご主人様を一般人だなんて。許せません。私、私…うぅ……」
「あらあら。シャルはあまえんぼさんね。よしよし。私は大丈夫よ」
「(ニヤ)」
「(ひそひそ)シュムよ。わしは時折ロッテのほうがあるじ様より邪悪ではないかと思うのじゃ(ひそひそ)」
「(ひそひそ)シッ!聞こえたら殺されちゃうお。そういうのは思ってても口に出しちゃいけません(ひそひそ)」

俺の目の前では謎の美女と、謎の美少女が何やら密談をしていた。
しかし面妖な輩だ。
少女の方は先程からコロコロと表情と雰囲気が変わり、時折一人で会話を
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