――ニアがクレアと交戦しているころ
「クヒ。クヒヒヒヒヒヒ。どぉ〜したのかなぁ?今は戦闘中だよ?そんなところで寝そべってちゃ危ないよぉ?」
ぐっ…。
痛い。
手足の色々なところから激痛を感じる。
私の隣でバフォメットも血を流して蹲っていた。
強い。
シェルクの姿をしたそいつは相変わらずシェルクと似つかわない歪んだ笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。
一瞬だった。
距離は剣撃の届く範囲から十分に離れていたはずだ。
なのに、あいつが剣を抜いた瞬間、私の手足には痛みが走った。
刀身も何も見えなかった。
本当に一瞬の事。
あいつは痛みを堪える私たちをその場から一歩も動かずニヤニヤと見下ろしていた。
「あれれぇ〜?どぉ〜したの?シェルクを救うんじゃなかったの?だめだよぉ?そんな事じゃいつまでたってもシェルクは救えないよぉ?ああ。そうか。そうやってボクが処刑されるのを待ってるんだね。うんうん。いい作戦だね。そしてすべてが終わった後でボクとシェルクの死体を持って帰って好きにするといいよ。かわいい可愛いシェルクの身体を舐め回して頬ずりして楽しむといいよ。心の済むまでシェルクの死体を可愛がってあげてね。クヒヒ」
「まったく…。かわいげの無いガキなのじゃ」
「もう。酷いこと言うなぁ。ボクはかわいいかわいいシェルクちゃんだぜ?そんなこと言われると、泣いちゃう…なぁあっ!」
また、
あいつが剣を抜いた瞬間、ずっと離れているはずのバフォメットが傷を負う。
どうして?
これがあいつの魔法なの?
それとも、あいつの持ってる剣が…。
「ほぅ…ほぅ…。なるほどのぅ。お主のその玩具、良く出来ておるではないか」
「へぇ。まだ立ち上がるんだ。どうしたの?やっとこの“無月”の正体でもわかった?」
「無月、というのか。その剣、いや、魔力線射出機は誰が作ったものじゃ?」
「クヒヒ。すごいね。そこまでばれちゃったら仕方ないか。はいはい。ご名答ぉ〜。おめでとぉ。この刀はね、無月って言って、開発したのは聖教府の技術部だよぉ。でも、聖教府の無能な連中じゃとうとう完成はできなかったんだよね。それで、ルキウスに言って作って貰ったのさ。お金もいっぱいかかっちゃったけど、僕等が死んじゃった後、ガラテアを好きにしたらいいよって言ったら許してくれたよ」
「ふん。そのような玩具のために国を売るとは…。見下げ果てた王様じゃのう」
「いいじゃん。どうせいつかはボクの物でもシェルクの物でもなくなるんだし。それに、きっとルキウスはあの国を悪いようにはしないはずさ。あいつがどんだけ冷静で冷血な奴だとしても、魔物との不戦協定は重要だし、それに、シェルクが一生懸命作りあげてきた国をあいつがそう簡単に壊すとは思えないしね。っと、ああ。話がそれちゃったね。この刀は“無月”。シェルクの聖剣として開発されたけれど、とうとう聖剣にはなれなかった出来損ないさ。居合の速さを追い求めた聖剣“紫電”とは別のコンセプトで開発された、魔剣だよ。いや、妖刀かなぁ?まぁいいや。その正体はさっきお婆ちゃんが言った通り、ボクの魔力を喰って魔力線を射出する装置さ。ここまで小型化するのってすっごく大変だったんだってさ。でも、おかげで魔力をつぎ込めばどこまでもその刀身を伸ばせる、刀身の無い刀になったってわけ。こいつの魔力線の収束能力は大したもので、ボクが全力で魔力を注げばその最大射程は100メートル近くにもなる。つまり、ボクはこの場から動くことなく、この場にいるほとんどの奴を切り殺すことだってできるんだぜ?」
「目に見えず、そしてどこまでも伸びる刀、か。なるほどのぅ。じゃが、その正体が魔力線ならば…」
バフォメットはそう言って大鎌を振り上げてそいつに突進する。
「わぁ!?魔力バリア?クヒッ。でも、無駄だよぉ〜。朔夜紫電流―縊斬り撫子―」
「ぐあぁっ!!」
バフォメットが胸から血を吹きだして倒れ込む。
「身体を覆う程に魔力バリアを広げちゃうとけっこう薄っぺらいんだぜ?無月の出力、いや、この場合僕の魔力量か。そんなの、いくらでも強く出来ちゃうんだからさ、全面バリアなんて無駄だよぉ〜」
そいつが嗤いながら再度刀を構える。
私はバフォメットの前に術式を収束させて。
「だから無駄だって!朔夜紫電流―縊斬り撫子―!」
しかし
バフォメットにその刃が届くことはなかった。
「あれぇ?おかしいなぁ」
私がバフォメットの前方に発生させた魔術は魔力の屈折と湾曲を行うバリアだ。
普通のバリアが貫通されるならまげて反らせてしまえばいい。
「ふん。カラクリが分かっちゃえばそんな玩具怖くないわよ!」
「ふぉふぉ。助けられてしまったのう」
バフォメットが治癒魔法を掛けながら立ち上がった。
「へぇ。あの短時間でそんな複雑な術式を…。そっか
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