煌々と燃えていた。
いや。
まるで燃えているようだった。
「シェルク…様?」
ニアくんは驚いた顔で固まったように動かなかった。
いや、ニアくんだけじゃない。
私と、それからバフォメット。
そして数人の魔女がその異変に気づいて動きを止めた。
異変の正体は処刑台の上にいる一人の魔物。
シェルクだった。
「クヒ。どうしたの?ニア。ずいぶんと驚いたような顔をして。キミの大好きなシェルクだよ?」
シェルクはシェルクとは思えないほど歪んだ笑みを浮かべて立ち上がる。
――ミシ…カラン…カラン…
そして、その身を拘束していたはずの手枷と足枷をまるで小枝を折るように簡単に砕き外した。
「あなたは…誰ですか?」
ニアくんが目を見開き、尋ねる。
その表情を見てそいつはニタリと嗤って。
「クヒヒ。あれぇ〜?どうしてバレちゃったのかな?」
「それは、変装術ですか?」
「変装?ヒッヒ。おかしなことを聴くね。キミは分かるはずだよね?この身体は正真正銘、誰の物でもないボクのもの。シェルクの身体だよ?キミとこうして話しているのはボクだけれど、キミにこうして声を届けているのはシェルクの身体さ」
「ルキウス。お前か!お前がシェルク様に何か!?」
ニアくんは恐ろしい形相で目の前にいたルキウス王を睨んだ。
「違うよ。それは間違っているよ。彼は初めから彼女の中にいた筈だよ。もっとも、これまではシェルクの意識がない時だけ彼は表に出てこれたようだから、きっとシェルク自身も気が付いていなかったことだろうね」
「クヒ。ニぃ〜アぁ?ダメだよ。ダメ。信じたくないキミの気持ちも分からなくもないけどさ。キミも薄々察しがついてるんだろ?だって、ボクの存在こそがキミがここにいる理由なんだから、さ?」
「…やはり」
「そっ。 ボクはシェルクの中に住むもう一人の人格。いや。ホントはシェルクを生み出したシェルクの元人格さ」
「お前がシェルク様を生み出した?」
「そぉ〜だよぉ〜?クヒッ。だってさ、考えてもごらんよ、あんな完璧で強くて優しくて弱くて脆くて、誰からも好かれるような人間がこの世にいると思う?いないよ。シェルクはボクがボクのいいところ全てを削りだして、汚れたもの、不完全なものを全てボクが受け入れて出来上がった、理想の勇者だったんだよ」
「そんなのは世迷言です。そんなことできるわけがない」
「信じられない?まぁ、そうだよね。ボクも信じられない事だと思うよ。でも、ボクはそうして生きてきたんだ。今までずっと。ずっとずっとずっとずっと…。シェルクを完璧な勇者にするためだけに生きたきた。シェルクのためにボクはシェルクの中だけで生きる事を選んだ。シェルクのために全てを彼女に与えてきた。シェルクのために彼女の身に降りかかる邪魔者を片づけてきた。シェルクのために彼女の汚い部分をボクは取り込んできた。
今まで誰一人ボクの存在には気が付かなかった。シェルク自身も。そして、聖教府からシェルクを監視するために送り込まれた刺客である君さえも」
「えっ!?」
私は思わず声をあげてしまった。
ニアくんが聖教府の刺客?
それってどういう事?
「あれれぇ?お姫様。気づかなかったの?っていうか、おかしいと思わなかったの?ニアは別に勇者のパーティとしてシェルクに連れ添ってきたわけでもない。ただガラテアに仕官してきただけの青年だよ。なのにどうしてこれほど優秀で、これほど強いのか。どうして魔力の性質すら変容させるほどの高度な変装術が使えるのか。まぁ、天才。なんて言っちゃえばそれまでなんだろうけどさ。それでもこの変装術はこんな若い青年が数年やそこらで考案して身に着けられるものじゃないよ」
確かに、言われてみれば不思議だった。
ニアくんの見た目の割に落ち着いた態度。
そして、姉さまの魔力に対しても顔色一つ変えずにいられる強さ。
シェルクの近くにいるから当たり前だって思ってた。
でも、バラガスさんやカロリーヌさんと比べてもニアくんはどこか異質だった。
「クヒ。ニアルディ。キミの事は知ってるよ。クレアと同じ、聖教府特務第13部隊、通称“死神の巣”出身のアサシン。だよね?
各国にある聖教府立の孤児院から選抜された才ある子供たちを超一流の死神に育て上げるための組織。クヒヒ。キミはボクとおんなじさ。
穢れない聖教府のために穢れを祓う影。ボクがシェルクを勇者にするために、ジパング嫌いのジジイどもを何人か殺したからね。
ジパング出身で勇者になることは稀だ。それも、シェルクが勇者になることに反対していた奴らが次々と謎の死を遂げたわけだから疑念を抱く奴らも少なからずいただろうね。
でも、ジパングで何百年も磨かれ続けた朔夜紫電流の暗殺術は完璧だ。どこを探しても証拠なんて出やしない。
その中で、突如独立国を作ってその王位につい
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