私は子供だった。
どうしようもなく甘ったれていて、ワバママで。
自分でできない事はぜんぶ姉さまや侍女たちがやってくれた。
姉さまはとても優しくて、いつも私を褒めてくれた。
何不自由ない暮らしに私は幸せだった。
それが当然だと思っていた。
私は王女で、私はリリムなんだから。
でも、私はシェルクに出会った。
強くて、気高くて、少し変わってるけど、とってもカッコよくて。
私は、シェルクにあこがれた。
初めて、他人に興味を持った。
初めて、人間に興味を持った。
小さなころから何度か人間を見たことはあった。
でも、そいつらはみんな、私がリリムだってだけで、王女だってだけで、それだけで私を恐れて敬って、畏まった。
私はそんな人間たちが大嫌いだった。
だって、人間たちは、私を見てくれなかったから。
誰一人として、私を、クリステアを見てくれなかったから。
シェルクは違った。
私を恐れるどころか、まるで、一緒に遊ぶように、私を笑い、私を怒り、私に立ち向かってくれた。
私に全てをぶつけてくれた。
私を倒すためにその命すらも削って、全身全霊で私に立ち向かってくれた。
そんな彼女を、私は救いたい。
「バラガスさん!?大丈夫ですか?」
「ん…あぁ。なんとかな。つつ…まだ頭ん中がガンガンするぜ」
バラガスさんやカロリーヌさんの部屋に戻ると、頭を押さえるバラガスさんの身体をカロリーヌさんが抱きかかえていた。
「くそ…。ざまぁねぇな。魔王討伐だなんて言ってたが、その娘の魔力当てられただけで倒れちまうなんて…」
「無理もないですよ。あれほどの暴力的な魔力の奔流。慣れていなければ仕方のない事です」
確かに。姉さまの魔力、すごかった。私も危うく意識を乗っ取られるところだった。
父さまからリスティア姉さまは特別だって、聞いたことはあったけど、あんなにすごいなんて。
ってか…
「まだ母さまを倒そうなんて考えてたの?」
私は呆れてバラガスさんに聞いた。
「ん?」
バラガスさんは「なんだ。いたのか」と言う顔をして。
「ああ。そうだぜ?俺はまだあきらめねぇぜ?」
バラガスさんはまっすぐな瞳でそう返してきた。
「へぇ…」
そのまっすぐな目に、少しドキッとした。
人間って、やっぱり強い。
「まぁ、今はただ交渉しに来ただけだしそんな事しねぇけどな」
「当たり前ですよ〜。せっかくここまで来たんですから変なこと言って契約を台無しになんてしたら…」
「ひぃ…」
カロリーヌさんが普段の柔らかい表情からは想像もできない怖い笑みを浮かべた。
「わ、分かってるよ。怒るなよ…」
「わかってるならいいですよぉ〜」
一瞬凍りついた場の空気がカロリーヌさんの柔らかな笑顔で融かされた。
「か、カロリーヌさん、結構怖いのね…」
「はい。とても強い人ですよ」
私はそばにいたニアくんに耳打ちして、ニアくんは笑いながら答えた。
その時だった。
「っと、そうだ。…姫さんよぉ」
バラガスさんが私を見て行った。
少し気まずそうに、視線だけ逃れるようにしながら。
「さっきは悪かった。俺も頭に血ぃ昇っちまってよ。おめぇの所為じゃねぇのは分かってるんだ。おめぇがシェルクを魔物にしちまったのは確かに許せねぇが、でもあいつが納得してるってのも分かってる。俺が悪いってことも…。その…なんだ?許してくれねぇか?」
バラガスさんらしい言葉。
嘘偽りのないまっすぐな言葉。
「うん。こちらこそごめんなさい。私にもできる限りの事はさせて。私もシェルクの事は大好き。シェルクを欲しいって思って、魔物にしたことは後悔していない。ううん。後悔したくないの。だから、こんな私に出来る事ならなんだってする」
「ふふ。そうか。あんがとよ。しっかしすげぇな。俺らの王様はよぉ。魔物の姫まで味方にしちまうなんて」
「ええ。素敵な人。だから、絶対助けましょ」
「ああ。もちろんだぜ!」
バラガスさんが手を伸ばしてきた。
「え?」
「和解したら握手だ。それとも人間の手なんか触りたくねぇか?」
バラガスさんが少し意地悪に笑って。
「いいえ。よろしくね」
私はその手を力強く握った。
「ふぉっふぉ。共通の目的のために人と魔物が手を取り合う。いい姿じゃな」
入口の方からバフォメットの声がした。
「あら?いたの?」
「なんだ?いやがったのか?」
「あれぇ〜?いつからいたんですかぁ?」
「ぐぬぬ…。サバトの主たる儂が何と冷ややかな扱い…。いいもん、なのじゃ…。サバトに戻れば可愛い魔女たちがいつでも…」
私たちの反応にバフォメットが分かりやすくいじけた。
ヤバい。かわいい。
ぐぬぬ…。
しかしここで優しく声を掛けちゃ奴はつけあがる…。
我慢よ。ここは我慢よクリス!!
「みなさんの様子はどうでした?」
「
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録