黒姫の降りる頃

その地には古くから時折黒い雪が混じることがあった。
不気味ではありながら、それが降った年の春には人々は子宝に恵まれ、その年の祭りの頃には、決まって黄金色の稲穂が首を垂らすように実りを付ける。
故に、古くからこの地ではその黒い雪が降ることを『黒姫が降りられた』と言い、吉兆とされてきた。
その所為なのか、この地には社はなく、神もいない。
人間たちは外が真っ暗になる新月の夜、空に向かって祈りをささげる。
『オンマイヤ、オンマイヤ。黒姫様の。オンマイヤ』
普段は白銀の光を大地に降り注ぐ月は、この日だけは星空に穴を開けたように、真っ黒な姿を現して、時折にこりとほほ笑むのだ。

















黒姫の降りる頃
















――ひそひそ
.    …忌まわしい…           …白い鬼の子…
.           …穢れた白い…             …祟りを振り撒く…
…呪われた子供…               …なぜ生きている…
.        …死んでしまえ…
.                          …殺してやる…


違う
私は鬼じゃないのに
どうして私ばっかり…


振るえる膝 抱えて
骨 軋むほど 強く

.   …殺してやる…     …消えてしまえ…
.                             …呪われた子…

私を取り囲む
真っ暗な部屋 影が盛り上がって 人の形
みんな 踊りながら 嗤って

いや… いや

.               ――殺してしまえ――

びくっ

あたまの深いところから
聞こえる                  ――殺してしまえ――
いやだ
私に話しかけないで               ――お前を傷つける者なんか――
そんなことはしない!
みんな優しい人たち
こんな私に毎日ごはんを持ってきてくれて
優しく声だってかけてくれる
.            ――こんなふうに

.  …忌まわしい…      …不吉な白い… 
.                            …殺せ…
.      …焼いてしまおう…        …毒を盛ろう…


「ちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうっっ―――――!」


しんと…  静まり返って
古い木と 埃の匂い
パチパチと燃える火鉢が傍にあって
白くて細い煙 高いところにある窓に向かう

いつも通りだった
私は汗びっしょりで
…これもいつも通り

入口の所
手紙と 小さな包み

“…× ※ #・_。。。”

文字がぐにゃぐにゃ 紙の上を蠢き回って
うう…
まだ“戻って”ないみたい
でも
きっとこんな事が書いてある

“姉さん。苦しそうだったから、ここに置いておくね”

包みの中には 大好きなお菓子と 竹筒に入ったお水

――ちくり                  …毒だ… …お前を殺すための罠だ…

部屋の隅から

はぁ…

無視無視

――ぱくり

舌の上で 雪が融けるみたいに
甘いのが広がって

「ん……っまぁぁぁ〜〜〜い!」

私の大好きなお菓子
ぐちゃぐちゃになった頭の中に
浸み込んでいくみたい

くしゅんっ

うぅ…寒い

私は包みとお水を持って火鉢の傍に
小さな火鉢だけど、蔵の中だからこれだけで十分にあったか
炭は源蔵さんがたくさん持ってきてくれたし
そんなことを思いながら
蔵の中を見渡して

ひぃ…ふぅ…みぃ…

う〜ん

今日は5匹か…
調子悪めだなぁ…

…ひそひそ

ぅわぁ…しかもなんか言い始めた…

やだなぁ… 今日、もつかな…

そうだ
火鉢のまわり 綺麗にしとかないと    倒しても火事にならないように

お布団 離して…
う…6匹目…中に…
き、気にしない… 気にしない…                ひそひそ

ふぅ…

片づけ終わって

なんで掃除するだけでこんなに疲れちゃうかな…

ああ…

ユウに会いたい…









あれ?
どれぐらいごろごろしてたかな?


――ごろごろ

重い音がして

「姉さん。起きてる?」

来たぁっ!

ユウっ ゆ〜うっ♪

「起きてるよ〜」

そのままユウに抱き着いて

「わわっ!?ちょっと?姉さん…」

あ〜。ユウの困った顔〜。かわいっ…

「ゆ〜うっ♪」

ユウの身体を抱きしめて
ユウのほっぺに私のほっぺをむにゅって
あ…
温かい

そうだ…

「ねぇ。ユウ。お風呂入りたい」
「え?ふふ。いいよ。でも、まだ昼間だよ?」
「いいの。私が入りたいの」
「もう。いつも姉さんは突然だなぁ」
「いいでしょ?」
「わかった。今用意してくる…」
「うんっ。ユウの着替えも忘れちゃだめよ」
「わか……えっ!?
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