「キミは詩人にでもなったのかい?ボクに持ってくるならラブレター(こんなもの)より面白い論文にして欲しいものだよ」
そう言いながらも小さなセンパイは僕の想いを込めた手紙を読み始めた。
心臓の鼓動が早くなる。
渡してすぐに逃げてしまおう。
そう思っていたはずなのに、なぜ僕は変わらずここに立ち尽くしているんだろう?
空に打ちあがった花火が空気を震わせるように僕の心臓が胸を響かせる。
乾いた唇を湿らせるようにつばを飲み込む。
僕は今どんな表情をしているのだろう?
そして
センパイは次の瞬間にどんな表情でどんな言葉を告げるのだろう?
――パサ
乾いた音を立てて僕の想いがセンパイの小さな手の中でシワクチャになった。
まるで僕の心臓が握り締められたように痛む。
その瞬間には僕は最悪の答えを予想していたんだと思う。
だから
センパイの言った言葉の意味がすぐには理解できなかった。
「キミは詩人としてもイマイチな様だね。仕方がない。ボクが面倒を見てあげるからこんな恥ずかしい物を今後ボクに持ってこないでよね」
僕は固まった。
というか
どう反応していいかわからずに立ち尽くしていた。
はたから見れば
ずいぶんと大人びた表情をした少女を前にさえない顔の青年がポカンと口を開けながら
少女の視線に身動き一つせずにたじろいでいる光景が見えた事だろう。
もしその青年の頭を輪切りにでもしてみたなら
きっと青年の人生の中で経験した事がないほどに脳ミソが蠢いている様子が見えたに違いない。
いや、もしかしたら彼の脳ミソはピクリとも動いてなかったのかもしれない。
ただ
そんな青年の姿を見かねた少女が彼の身にかかった呪いを解いてくれたおかげで
僕は石像から人間に戻ることができたのだと思う。
「キミは恥ずかしい上に鈍いのかい?ボクは「こちらこそよろしく」と言ったんだよ」
普段は絶対に見せないような表情。
白くて 突けばプルンとふるえそうなほっぺを桜色に染めた、
ゼリーのように透き通った唇を少し突き出した、
そんな少女の表情。
それを見た僕はその時どう思ったのだろう?
確か…
何よりも先に
「やっぱり好きだ…」
そう口走っていたんだったと思う。
〜ハッピーエンドレス
これはこの物語の結論だ。
そう。俗に言うハッピーエンド。
どんなに人気のあるラブコメディーだってその場面で幕が閉じられる。
それ以上先の描かれることのない
最後のひとコマ
でも
僕はあえてこのシーンでお話の幕を開けたいと思う。
終わりの見えているお話に面白みがないのは昔の話だ。
結末を知っていても変わらず僕らは歩み続けるはずだ。
だって、みんな初めからその結末を信じているんだから。
それに
このシーンがこの物語にとってのラストシーンとは言い切れないしね。
物語の始まりは僕がここにやってくる場面だ。
人間の国で産まれて、人間の国で育ち、人間として生きてきた僕。
そんな僕の前にある日突然女の子がやって来た。
見た目は10歳ぐらいだろうか、
いや、もっと幼くも見えた。
そんな少女がこう言ったんだ。
「ボクと一緒にもっと先の世界へ行ってみないかい?」
ぼさぼさと痛んだ黒髪と、
ところどころ乾いた薬品のシミがついた白衣、
それに大きくてかわいいダークブラウンの目の下にくっきりとしたクマを作った女の子。
そんな子が天使に見えるはずもなかった僕は、
「あなたは何者ですか?見たところ人間ではないようですが?」
そう問いかけていた。
僕の問いかけに対して彼女は、
「そうだね。突然現れた見ず知らずの人物に対する答えとしては適切なものだよ。キミは勘が鋭いね。その通り。ボクは人間じゃない。ボクは魔王軍魔術部隊魔法科学部合成魔法化学研究室室長の…」
「え?…えっと、すみません。魔王軍魔術部?」
舌足らずな感じの幼い声で、彼女はスラスラと長い研究機関名を口にした。
「えっと。そうだね。ボク等の事をみんなは「サバト」と呼んでいる。ボクはそのサバトの魔女だよ」
サバト …という名前には心当たりがあった。
僕の所属する聖教府属魔術研究局の最大の敵対組織。
その実、どうあがいても太刀打ちできないほどの科学力を有する魔王軍の組織だ。
そんな組織の魔女であるところの彼女が、どうして僕なんかの所に?
「キミの先日の論文を読ませてもらったよ」
聖教府の機密情報局は何をしているのだろう?
それとも、僕の論文は漏洩しても差しさわりの無い文書というカテゴリに入れられてしまっていたのだろうか?
「“魔性炭素化合物のR-C-M結合に関する特異的性質”。あれの発行者と研究者はキミの名前だけだったけれど、キミは研究助手なども持っているのかい?それとも本当に君一人で?」
その論文は確
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