立ち込める赤黒い霧
漂い臭うは瘴気の風
登り揺れる紅炎を背にし
鬼が吼える
神も仏も等しく黙り
空を貫く慟哭の声
瓦礫に臥すは己の体
迫り来るは赤焔の鬼神
逃げるも向かうも変わりはしない
立ち上がらねば待つは 唯、死
震える剣を地に叩きて
切っ先を真直ぐ前へ
死なんと戦え
生きんと逃げるな
末代までの笑い種ぞ
「我こそは御裟上 業正(みさかみ なりまさ)」
高らかに吐け
決めるも外すも一時の事
生きるも死ぬもまた同じ
『黙れ小僧っ!』
鬼の一声に地は揺れ
空は曇り
『友の敵、許すまじ!最早一片の血肉も残すまい』
鬼の一歩に地は裂け
風は焼け付く
「それは我とて同じ事!いざ、尋常に勝負!」
巫女と鬼
――時は変わり…
雪が降り
雪が積もり
雪が融け
雪がまた降り
またも融けゆく
今年の冬は長く
終わりに気づくのは梅の香りを知った頃
そうかと思えば桜が並木を彩り
境内の土は雪のそれにも似た白い花びらに埋め尽くされていた
川沿いに続く桜の並木の木陰には
酒の香りと人の声
川に落ちては流れ行く花びらを
盃に落ち込む桜もまた
酒の肴と飲み干される
「とぉ、言ったわけでしてねぇ。こっちも参りましたよ」
「それはそれは。災難でしたねぇ」
「ええ。まったくそのとぉりで」
「何事も健康が第一です。私たちも気をつけなければいけませんねぇ」
「そうですよぉ。そのためにこいつでさぁ。なんてったってぇ百薬の長!こいつに勝る薬はぁありやせんぜ」
弾む話題と注がれる酒
盃に受け取り
狸娘の身体の割に大きな身振り手振りを眺めつつ飲み干す
「ところで道田貫さん、先日お願いした件についてなのですが」
私が声をひそめるように言うと
「あぁ。そぉでございやした。商売柄 口を開きゃあ言葉が増えてしまいましていけゃせん」
そう言って右手で耳のあたりをポリポリ掻くと、狸娘は自分の身体ほどもありそうな大きなカバンのがま口を開き、なかから一封の書状を取り出す
「旦那の読みどぉりでやんした。銀三一家はお家騒動の真っ最中。旦那の書いてくださったお札と御守りのぉ御蔭で無事に娘さんも化けることぁできやして、先の一件は無事に落着とぁ相成りました」
「そうですか。それはよかった。…して」
私が顔を寄せると、狸娘は耳に口を近づけ
「謝礼の方は例の件を承諾していただくという事で丸く収まりそうですぁ」
私はそれを聞き、安堵の息を漏らすと
「そうですか。これで西地区の再開発の件も恙無く(つつがなく)手配できそうですね」
「えぇ。しかし旦那、一体どうしてぇ今回の件をお知りになったんで?街のあちこち飛んで回ってるあっしでさえ一言たりとも耳にしねぇ話でぇやんしたのに」
狸娘が商魂を目に輝かせ尋ねてくる
「それは内緒ですよ」
ここは話をはぐらかし
「ところでその右手の袖に付いた油の跡」
「え?」
私が聞くと、そんな事など気づかなかったという風に狸娘は自分の右袖を見る
「それから先ほど香った珍しい巻タバコの臭い」
「え?え?」
「そしてその袖の下に入っているもの」
「なっ(ギクッ)」
狸娘はしまったといった風に袖を胸に抱えて隠す
「どうやら今回の手間賃は銀三さんから頂いたようですね。まぁ、あまりそういうやり方でお金を貰うのは感心しませんが」
「は、ははは。人聞きの悪ぃ事はいいっこなしでさぁ。あっしはちょいと銀三んとこの油売り突ついて油倉に火を灯そうとしただけでさぁ。密造しy…おっと。悪いことしてるのはあっちでさぁ。それにあっしは旦那に比べりゃぁ、ずいぶんと真面目な商人ですぜ」
「ふふふ。あなたも悪ですねぇ」
「いえいえ、旦那様にはかないやせんぜ」
と、私たちがいつもどおり談笑をしていると
「臭うなぁ〜」
「「え?」」
背後から突然声が聞こえた
「なんだか悪巧みの臭いがするなぁ〜」
間延びしたような、肝の座っているような
この声は…
「やべぇ!サツだ!ズラカレ!!」
「ヘイ、ガッテン!!」
私はたぬきさんに促すと二人して逃げの構えを取った
しかし…
「誰が“サツ”だよ?誰がぁ…」
「「あれ?」」
二人で声を揃えて疑問符をあげる頃には
「ちょっと、ちょっと旦那ぁ。なんかあっし、浮いてる気がすんですがぁ…」
「き、奇遇ですね。私も何か地に足がついてない心地です…」
偶然にも二人同時に武空術を体得していた
…訳ではないようで、
「なんだかあっし、襟元が苦しいんでやすがぁ・・・」
「奇遇ですね。私もなんだか意識まで宙に浮きそうな心地です・・・」
「あの、なんか例えるなら六尺はあろうかという大女に後襟つかまれて持ち上げられているかというような心地なんでやすが・・・」
「そ、そんな気がしな
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