「んじゃぁ、俺は兵士どもの様子を見てくる。きっと奴ら、まだ勝利に浮かれてるだろうからな。まったく、下の奴らの面倒を見るのはつかれるぜ」
「ふふ。頑張ってね。バラガス元帥♪」
「うっせぇよ」
ふぅ
私は小さく息を吐く
なんだか不思議な感じ
世界に明かりが射したみたいな
心に明かりが灯ったみたいな
暗い会議の後なのに
バラガスが、みんながいてくれるからかな?
ニアや、カロリーヌががんばってくれてるからかな?
きっとこの後もどうにかなる気がする
そして、ニアと、みんなと喜び合うんだ
霧が晴れたように笑いのあふれる街で
みんなみんなで一緒になって
そんな世界が
そんな明日が
すぐ近くにまで来ているような
そんな気がする
私は嬉しい気持ちを抱えて、ベッドに腰掛けた
――トス
「ずいぶんと嬉しそうじゃない」
「わひゃぁっ!?」
突然背後から聞こえたのは見知った声だった
「なんだぁ。クリスか。脅かさないでよ…」
「ふふ。へぇ〜。それがシェルクの“素”なのね〜」
「え?あ…。な、なんだ?私をからかうな」
「うふふ。シェルク。そっちの方がかわいいわよ?ずっとそっちのシェルクでいてよ」
「ダメだ」
「えぇ〜!なんでぇ!?」
「言っただろ。私はまだ人間の国の王なのだ。せめてこの国が私の思い描いていた形になるまではこの仮面は手放せん」
「えぇ〜。もったいないわ。きっとこの可愛いシェルクなら今よりもっと人気も出るわよ?」
「ダメなものはダメだ。せめてフリーギアの件を解決するまでは私はまだ人間でいる。これは私の“命”なのだ」
「“命”か…」
「ふふ。先ほどの話、やはり聞き耳を立てていたのか?」
「うん。シェルク達が部屋に入ってきたときから」
「狸寝入りに盗み聞きとは…。はしたないお姫さまだ」
「ふふ。いいでしょ?私は姉さまたちとは違うもの。……ねぇ、ところでシェルク…」
クリスが眉を寄せて顔を近づける
「どうした?」
「さっきの話。私もいっしょに行っちゃダメかな?」
「行く?フリーギアにか?」
「うん。シェルク以外の王様、それも、シェルクが初めてをあげたっていう人間を、私も見てみたい」
「………」
私は喉元に言葉を詰まらせた
「ルキウスか…。いや。それはやめておいた方がいい」
「どうしてよ!?」
「お前は私や私の国の人間にしか出会っていないからわからんかもしれんが。魔物を嫌っている人間も多く存在する」
「……それ、姉さま達から聞いたことがあるわ。もしかして、ルキウスって人もそうなの?」
「いや。あの男は魔と人を差別するような男ではないさ」
「ならどうして!?」
「ルキウスがそうだとしても、フリーギアという国はそうではないのだ。前王の時代、フリーギアと私が戦をしたという話は知っているか?」
「え?ん〜。確かバフォメットがそんな事を言ってたような気も…」
「前王は聖教府の急進派だった。故に、魔物に対して理解しようとする私を邪魔に思っていたのさ。だからあの争いは起きた。そして、フリーギアという国の中枢にはその前王の息のかかったものが数多く存在している。人間は魔物とは違う。人間が、魔物を憎む人が魔物の姫など捕まえてみろ。お前にどの様な危害が及ぶかわからん」
「そんな……」
「クリス。これも現実なんだ。未だに人間の多くは魔物が人を喰い、人に害をなすものだと信じている。誰もが魔物と分かり合えるわけではないんだ」
私の話を、クリスは真剣な顔で聞いていた
しかし
「でも、シェルクももう魔物なんだよ?私が…そうしちゃったから…」
「ふふ。大丈夫だ。ニア程ではないが、私の変身魔法もなかなかのものなのだぞ?ヘマはしないさ」
「でも、なら!私も変身して、人間に化けてついて行くから!」
クリスの瞳は変わらず真剣だった
軽い好奇心ではない
そうか
「クリスは…どうしてルキウスに会いたいのだ?」
「さっきも言ったでしょ。シェルク以外の人間の王様を見てみたい。そして、シェルクが初めてを…あげたっていう男を、見てみたいの」
「それは何のためだ?」
「それは……」
クリスが少しうつむいて唇を尖らせる
そして
「私は、リリムとして、魔界の姫として、人間を見てみたいの!」
その眼に嘘はなかった
そうか
クリスが決めたのならば…
「わかった。クリス。少し痛いかもしれんぞ?」
「え?」
――パチッ!
「っ!」
私はクリスの首に結ばれていた呪紐を解いた
――ゴゥ
その瞬間、クリスの身体から膨大な魔力が発せられる
「なっ!?」
驚いた
私と戦った時とは比べ物にならないほどの魔力
これが、クリスの、リリムの本来の魔力…
「ふぇ!?何コレ!?」
クリス自身も驚いているようだった
――ジジ…
――ボゥ
突然、クリスの周囲で静電気の放電のような音がし
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