Sleeping sheep ? 〜 眠れる羊を起こすな 〜

半年前、俺は羊を拾ってきた
羊といってもただの羊ではない
ワーシープだ
なぜか大きめのみかん箱に入って
その箱の側面には「拾ってください」の文字があった
怪しいことこの上ない
見れば眠そうな目を擦りながら羊は俺を見上げている
「・・・  (にへら)」
柔らかな微笑が疲れた心に癒しをくれた
…そうだ
ワーシープの毛皮は高く売れる
才能もないが金のために冒険者なんて危ない仕事をしていた俺は
これはちょうどいい機会だ
そう思った
だからそいつを連れて帰り、飼育することにした
それが…なんでこんなことに?




「おらぁ!素振り100回だっつってんだろぉがぁ!まだ92回だぞ?あぁん?何サボろうとしてやがんだぁ!?」

背後からミノタウロスのようなドスの利いた声が飛んでくる

「は、はい!先生!」

――ブォン…ブォン…

俺は自分の身体に合ってない重い大剣を言われるままに振り続けた

「99…よし!100っ!お疲れぇ!1分休憩してよし!」
「えぇ〜!?1分だけぇ!?」
「あぁん?休憩もいらねぇってか?ほほぉ…。よし!次は袈裟掛けに100回だ!構えっ!」
「ひぃぃ!!」

俺は睨まれ、言われるままに剣を構えた

――ホロ

あれ?おかしいな?…どうして目から水がこぼれるんだろう?
もふもふワーシープと夢の酪農生活を始めたはずなのになぁ?
あれ?どうして俺は大剣なんか握って、手に血豆を作りながら素振りしてるんだ?

「おい!涙なんか流してもノルマは減らねぇぞ?あぁん?いいから振れぇっ!」
「は、はいぃ!!」

俺は涙を流し、手の平の血豆が潰れる痛みに耐えながら大剣を振った
なんで…なんでこんなことに…
なんで?なんでワーシープがあんな…

「あんなに怖いんだよぉぉぉ!!!」
「誰が怖いだとぉ!?!?オラァ!下段100も追加だぁ!」
「ひぃぃ!!」









? sleeping sheep ?  〜 眠れる羊を起こすな 〜  ?









「あぁ…痛い、痛いよう…」

俺は火傷した様に痛む両掌を水の入った桶に浸けながら涙を流した

何度も言うが、どうしてこんなことになったのだろう?

事の始まりは羊を拾ってしばらくした春
彼女の毛皮を刈り取った時だった
初めてだったので、知り合いの農家の親父に手伝ってもらいながらの作業だった

「いいか?ルート。羊の毛を刈るときは愛しい女のまんこに触れるようにだな…」

親父はセクハラ紛いの発言を連発しながら毛を刈って見せてくれていた気がする
しかし、その手ほどきは見事なもので、俺も剃り跡一つ残さず綺麗に彼女の毛を刈れた
そして、市場に行って毛皮を売り
その驚きの額に目を丸くしたのは懐かしい思い出だ
しかし
大金を懐に入れ、冒険者時代の貯金で建てた小屋に戻った時から悲劇は始まった



「ただいまぁ」

俺が小屋に入るなり、かわいい羊は俺の傍に駆け寄り、眠そうな顔に笑みを浮かべ
いつものように すりすり と俺にその柔らかな肌を擦りつける
…はずだった

しかし、現実は違った

「よぉ。どうだ?オレの毛はいくらで売れた?大層な金になったか?」

そこに在ったのは
木製の簡素な椅子に
まるで玉座に鎮座する魔王のように腰掛け
葉巻でも咥えながら部下の失態を含みのある笑顔で迎えるファミリーの首領
の様な風情を漂わせる豊満な身体つきをした変わり果てた羊の姿だった

「あ、あれ?…あはは。俺ったら帰る家を間違えたか?」

俺は慌てて扉を閉め小屋の外を見渡した
酪農地が広がるのどかな風景が広がっていた
少なくともウォール街のマフィアのドンが居る様な場所には見えない

「あれ?おかしいな…。ここで間違いないはずなんだけど…」

俺は首をかしげた



「ただいまぁ〜」

俺が部屋に入るなり、かわいい羊は……

「よぉ。どうだった?家は間違ってなかったか?」

まるで今から笑顔で出来の悪い部下の脳天をトカレフで撃ち抜こうとするボス
の様な風情を漂わせ
肉付きのいい太ももを組んでこちらを見下すように見ていた

「あ、あれ?…あはは。おかしいなぁ…。すみません。この辺に僕の羊はいませんでしたか?もふもふしてふわふわしたのなんですけど?」

自分でもおかしな質問だった
しかし、そうとしか言えなかった
だってお前…
確かに似てるよ?ふわふわのウェ〜ビ〜な真珠色の髪に巻角
それに少し日に焼けた麦わら色の肌に大きなおっぱい
それに俺がいっぱいご飯を上げたせいでほんの少〜しぽっちゃりした肉付きのいい身体
でもお前…
これは別人でしょ?
だってさ
確かにうちの羊はちょっと釣り目気味だったけど三角の目なんかしてなかったもん
あんな瞳孔開いて今にも襲いかかってきそうな瞳じゃなかったもん
それにあの口、見てみ
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