まるで空を自在に駆けるかのような心地
踏み込みの瞬間の床の凹凸
宙に舞う塵の一粒一粒
バフォメットの幼い肌に浮かぶ筋肉の動き
全てが手に取るように見える
これは恐らく人には許されぬ力
人間が持つにはあまりに大きな力
しかし、私にはそれが必要なのだ
こいつに勝つために
「―グラヴィトンボレイ」
奴が大鎌で描く奇跡になぞらえ複数の黒く禍々しい球が浮かび上がる
渦巻く魔力の奔流
それすらも今の私にははっきりと感じられる
魔力により収束させられた重力点
触れれば骨もろともぺしゃんこに潰される事だろう
しかし
「私の剣に斬れぬものはない!―雷霆」
切っ先に集中した私の魔力が奴の魔力を弾き、切断する
「ならばこれはどうじゃ?―ターミネートエッジ」
奴の大鎌に黒い魔力が集中する
恐らくは雷霆と同種の魔法
いや、しかし、その魔力の作用極性が明らかに異なる
――ズパッ
一振り
しかし今の私にはあまりにも遅い斬撃
「遅い!」
私が紫電を引き抜く、まさにその瞬間
――ググ…
何かに引き寄せられる感覚
そして
――パァン
破裂音と共に私の背に走る痛み
「ぐあぁぁ!!…」
術により増幅された神経が強大な痛みを伝える
「儂の魔力に覆われた刃は万物を切断するのじゃ」
「くっ…空間もろとも切り裂いたということか…」
奴の大鎌によって切り取られた空間が元に戻ろうとする力によって吸い寄せられ、そこからわずかに遅れて復元しようとする真空による衝撃波
それが恐らくは奴の攻撃の正体…
強い
とてつもなく強い
この術を使っていなければとてもじゃないが越えられそうにない相手だ
「何ともでたらめな力だな」
「お主のそれほどではないのじゃ」
――ピクピク
腹の筋肉が痙攣する
次の瞬間
「!?カハっ!」
――ビシャッ
床にぶちまけられた鮮血
口の中に血の味が広がる
「な、なんじゃ!?」
「ふふ。あまり時間がないようだ」
「お主…まさか…―― 〜…」
私の耳に奴の声が遠くなっていく
身体の各所から違和を感じる
もう時間がない
「バフォメット殿。朔夜紫電流には2つの禁忌技が存在する。一つはこの黒天白夜。内なる氣の制御崩壊。つまりは魔力を体内で暴走させ、身体能力を飛躍的に高める技だ。そしてもう一つ。神滅第六天。体外に氣を暴走放射する事で空間に影響を及ぼす技だ」
「それを〜しに言ってど――するのじゃ?」
「貴女なら私の誇りを避けはしないだろう?」
私はニヤリと笑う
「行くぞ―朔夜紫電流、禁術…神滅第六天」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
瞬間
奴の背後から黒い魔力が大気に広がっていく
まるで夜の闇にも似たそれは瞬く間に部屋全体を覆い尽くす
「これを避けずに受けろじゃと!?」
避けるも何も逃げ場などないのじゃ
それこそ、儂が魔力を開放し、奴の魔力を吹き飛ばしてやれば話は別じゃが…
はぁ…しかし、その誇り、受け止めてやらねば儂の勝ちではないのじゃろうな
「それにしても、なんと禍々しい魔力じゃ…」
部屋を闇に染めた魔力の奔流は空気をまるで水のように粘り気のあるものに変えていく
「これぞ神滅第六天。神の手の届かぬ魔の世界だ」
そう吐いたシェルクの姿は、先ほどまでとは異なり、白銀の髪は輝きを失い、そして、その姿そのものが徐々に闇に溶けていく
「なんじゃ?」
奴の魔力を察知しようにも大気に満ちるこの闇のせいで居場所がわからんじゃと?
何とも恐ろしい技じゃ
『行くぞ』
暗闇に響く奴の声
――ぬる
「な!?」
途端、背後から両腕をぬるりとしたものに絡め捕られる
『よそ見していていいのか?』
――ゾク
耳元で聞こえた声
そして
――ズバっ
「ぐあぁぁぁ!!」
儂の身体が斬りつけられた
そして、目の前にいるのは真っ黒なシェルクの姿をした影
「儂を、馬鹿にするなぁぁ!なのじゃ!」
――ブォン!
大鎌で一薙ぎしてやると、腕をつかんでおった何かと、奴の影が霧のように消え去る
「なるほど。大気に密に溶け込ませた魔力を自在に操ることで、変質させた大気をあたかも自分の手足のように操る伎というわけじゃな…」
『流石はバフォメット殿だ』
またも耳にかかる程近くで聞こえる奴の声
「そこか!―獄炎弾!」
――ドォン!
爆風で一瞬闇が晴れ、光が見えるも、また次の瞬間には闇に覆われる
『ハズレだ』
「!?」
――ブシャァ
「ぐぅ…」
背中に痛みを感じる
「こうなればヤケなのじゃ!くらえ!―カタストロフ」
儂が大鎌を地面に突き立て、そこから地に魔力を走らせる
――ドドドドドドドドドドドドドド!!
地面から立ち上る無数の魔力波の柱
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