第六話 王の力

「ふふ。よいのか?2人同時でも私は卑怯だとは思わんぞ?」
「大丈夫。私がこうしたいだけだから」
「そうか。では、遠慮なくいかせてもらうぞ」


――チャ

「朔夜紫電流―風切り」

――バチッ

「っ!!?」

――チン

一瞬
いや、瞬きすらもできんかった
奴が聖剣に手を掛けるや否や、光のような斬撃がクリステアを襲った
反射的に飛びのいたクリステア
しかしその左腕には刀傷を負っておった

「なんじゃ…今の剣速は?」
「ふふ。我が霜月家に伝わる殺人剣、朔夜紫電流だ。その名の通り暗闇に走る雷の如き高速剣。お前たちを屠るために会得した私の技だ」

ジパングの剣術か…
しかしいくらなんでもあのデタラメな剣速は常軌を逸しておるのじゃ

「気を付けるのじゃクリステア。おそらくは今のがドラゴンを一撃で倒した奴の技…」
「分かってる。でも速すぎて…」
「次々いくぞ ―群雲」

――バチッ

シェルクが踏込みと共にまたもあの剣撃を振るう
踏み込みが加わった分先ほどよりも射程が長い

「くっ…マイティガード」

――ガキィィン!
――バチバチバチ!!

クリステアが咄嗟に張った魔法障壁にシェルクの剣がぶつかる
そして激しく舞い散る火花

「ほう、流石は姫だ、あの速さで障壁を展開できるか。しかし、甘いぞ ―雷霆」
「っ!!」

――バチッ

「ぅくっ!?」

――チン

「嘘!?魔法障壁を切断した!?」

一瞬奴の剣が光ったかと思うと、物理攻撃の一切を阻むはずの魔法障壁が真っ二つに切り裂かれ、クリステアが再び腕に傷を作る

「ふふ。私の剣に斬れぬ物はない。そして逃れられる者もいない ―奥義紫電一閃」

――バリッ

「うっ!」

――ぱしゃっ

一瞬
シェルクの身体がいつの間にかクリステアの背後に移動していた
そして、クリステアの胸から鮮血が舞った

「ほぉ。紙一重で躱したか。まったく。朔夜紫電流、必殺の一撃だというのに。流石だ、姫。化け物じみた反応速度だな」
「あんたが言うな…化け物め―フレイムウォール」
「おっと。危ないな。そのクラスの魔法を詠唱破棄とは、恐れ入るよ」

確かにまるで化け物のような速さじゃ
あれが人間の動きか!?
いくらなんでも異常なのじゃ
これが“閃光のシェルク”の所以なのか…
しかし、いくら鍛え、そして神からの加護があるといってもあの剣速は明らかに異常じゃ

「―音鳴り」

――バチッ

「フッ!」

――チン

「ほぉ…すごいな。今度は完全に避けるか」
「ふん。当たり前よ、もう慣れてきたもん」

クリステアは防戦一方になりながらもあの剣速について行っておる
此度が初陣のはずじゃが、センスは悪くない
しかし、なんじゃ?
奴が剣を抜く一瞬、まるで電気が流れるような音がするのじゃ
もしやそこにあの剣速の秘密があるというのか?
儂はそれを探ろうと奴の手元のみを注視する

「―霹靂」

――バチ

「っ!」

そうか
分かったのじゃ
確かに見えたのじゃ
あの一瞬、剣を抜くその瞬間
確かに奴の刀身から鞘に光が走ったのを

「クリステア!距離を取るのじゃ!奴の剣速は確かに尋常ではないが、別に間合いが伸びたり斬撃が飛んでおるわけではないのじゃ」
「わ、わかった!」

クリステアが一瞬でシェルクから距離を取る
それを見て、シェルクが一旦構えを解いた

「ふふ。なんだ?バフォメット殿、もう何か気づいてしまったのか?」
「ああ。恐れ入ったのじゃ。その刀、流石は聖剣じゃな」
「ふふ。聖教府の奴らに作らせた特別性だ。普通はこんな素材手に入らぬからな」
「ど、どういうこと?バフォメット」

クリステアが疑問そうに尋ねる

「奴の刀の鞘、それは強力な磁石になっておるのじゃ。おそらくは魔力を流すと電磁力を発する磁鉄魔石。それにたぶん完全導体エレクトラムを加え磁力を増しておるのじゃろう。そしてその刀身もまた、それに反発または逆に誘引するよう極性を自在に変える様に磁力を帯びるようになっておるのじゃ」

「あ〜あ。バレてしまったか。ふふ。実はこれが歴代最速を謳われた私の剣の正体だ。意外と単純な物だろ?」

「単純な物か。そのジパングの剣術特有の構え、確か“居合”と呼ぶんじゃったか?その構えだからこそできる紫電の一閃というわけじゃの…」

「ああ。抜刀の瞬間に魔力を込めることで、鞘と刀の強力な反発力を利用し、朔夜紫電流の居合術をまさに神速の域まで高めた私の必殺剣だ。お前たちでも避けるのがやっと、並の魔物ならば反応もできまい」

「しかし、かと言ってお主の間合いが伸びるわけでも、剣が伸びるわけではないのじゃ。クリステア、奴の剣速こそ神速じゃが、奴の速さ自体は人間のそれじゃ。落ち着いて間合いを見極めれば躱せるのじゃ。そして抜刀後の隙を突けば勝利はあるのじゃ!」


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