儂とクリステアはとうとう謁見の間の前にたどり着いた
儂は魔力を走らせ、罠がないか調べる
「…?おかしいのじゃ」
「何が?」
「罠の気配がないのじゃ」
「じゃあ大丈夫なの?」
「あ、ああ。少なくともこの部屋には何もないはずじゃ」
「じゃあ…開けるわよ?」
――ギィ…
「ふふ。やっと来たか。待ちわびたぞ?姫君、それからバフォメット殿」
「………」
今までのように笑って迎えるシェルク
儂はシェルクにも警戒しつつ部屋の中を見回した
「ああ。バフォメット殿。安心してくれていい。この部屋には罠も結界も張ってはいない」
「信用できんな」
「ふふ。その様子だと、私の歓迎は気に入ってもらえたようだな。城主として嬉しく思うぞ」
「………」
まるで女神のような微笑じゃ
こやつに儂らはここまで追い詰められ、危機に陥ったのじゃ
しかし、その笑顔からはこやつが本当にそんな人間じゃとはとても思えん
何とも不気味で恐ろしい女じゃ
「ちょっと!あんた!大人しく私たちを解放しなさい!あんたじゃ私には勝てないわよ」
「ふふ。それはやってみなくてはわからんと言っただろう?」
「………勇者シェルクよ。この際じゃから聞きたいのじゃが」
「ん?なんだ?バフォメット殿」
「昨日の戦についてじゃ。お主の兵、どう見ても儂らの動きをあらかじめ知っているとしか思えない動きじゃった」
「ああ。それか。それならばな、私の諜報部隊は優秀でな、常にガラフバルの兵の様子は調べていたのだ。そしてお前たち遠征軍の事も細かく調べさせてもらっていた。そうすればあらかじめ、ある程度の対処は打てる」
「しかし、それでは説明がつかんじゃろう。もしも儂らが初日から前線に立って戦っておったならばどうするつもりじゃったのだ?」
「その場合の策ももちろん用意してあったさ。ちなみにその場合は私がお前たちの相手をし、そのまま撤退を装い城下町に引き込む手はずになっていた。ふふ。お前たちが気付いたかどうかは知らんが、あちらにはこちらとは比べ物にならないほどの数の罠が仕掛けてあったのだぞ?」
「まったく性格の悪い女じゃのぅ…。しかしそれではちと納得しかねることもあるのう。あの対空爆撃、それからこちらの左翼に完璧に連動した攻めへの転換…。まるでタイミングを知っておったかのようじゃったぞ」
「ふふ…。そうだな。どうしようか。それは言ってしまうと少し面白味がなくなるかもしれんぞ?」
「もったいぶるでないのじゃ」
「ならばネタばらしといこう。バフォメット殿、“ルティ”という魔女に心当たりはないか?」
「ルティ…じゃと?………」
儂は記憶をめぐらせる
そして、昨日の砦での出来事を思い出したのじゃ
『ん?お主、見かけぬ顔じゃな』
『あ、は、はい。私、この砦で働いておりますルティと申します。え、えっと、私は戦闘は苦手なので…』
「ま、まさか……」
「ふふ。思い出してくれたか。かわいい顔だからすぐに思い出せただろう?あいつは私の部下でな、情報部隊の司令官をしておる。あいつにコレを使わせてお前たちの話を聞かせてもらっていたのだ」
――コロン
そう言ってシェルクが儂の足元に何かを投げた
「な…」
それは小型の水晶式通信機じゃった
「若いが賢い奴でな。その上にあの愛らしい顔。私のお気に入りだ」
「……ま、まさか部下の少女を魔女に変装させておったとは…」
衝撃じゃった
まさか本当にこちらの作戦が全て筒抜けになっておったとは…
「ん?何を勘違いしているのだ?あいつは男だぞ?」
「ぶっ!!!な、なんじゃとぉ!?」
「ふふふ。いいリアクションだな。まぁ、私も逆の立場では同じような反応をしてしまうだろうな。ちなみに魔女に変装して情報を集めていたのはあの時が初めてではない。ふふ。魔物とは純粋でいい。少し見た目と魔力の質を変装してやれば、人間のように相手を疑おうとはあまりしないからな。おかげでお前たちの情報を得るのはあまり苦労しなかったよ」
「なんということじゃ…まさか男が魔物に化けて紛れ込んでおったとは…」
「ふふ。いい策であろう?情報は戦略の要だからな」
「……ではもう一つよいかの?」
「ん?なんだ?」
「今日の事じゃ。お主は“逃げたふりをしておった兵”と言っておったが、魔女たちの情報ではとても演技をしているようではなかったと言っておったぞ?それに昨年この国と戦争をしたフリーギアが同盟軍を出すというのもおかしな話じゃ」
「ふふ。簡単な事だ。なぜならあれは演技ではないのだからな」
「なんじゃと?」
「逃げた兵たちは演技をしていたよ。しかし、残った兵達にはあえてその作戦を伝えていなかった。おかげで悪いことをしたと思ったよ。元帥のバラガスや宰相のカロリーヌまで落ち込んでしまってな」
「自分
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