中編

アルの仕事部屋に共に入室した俺は、部屋の中央に向かって歩む彼女の後ろに控える。
凄腕の魔道機甲学エンジニアであり、鍛治神ヘパイストスの加護を受けた勇者であるサイクロプス“アル・クロセウス”。
そんなとんでもない肩書きを持つ彼女の仕事に、素人の俺のサポートなど不要だと思うのだが……
アル曰く『ダーリンが後ろで見てくれてるだけで、私のお仕事やる気ゲージはマックスになるから、私を見るのがダーリンのアシスタントとしての一番大事なお仕事♪』との事らしい。
……照れ臭いというか、なんというか。
ただ見てるだけだろ、って言う奴もいるかもしれないが、それでも彼女の役に立てるというのであれば、この役目は俺にとって誇りだった。
だって、惚れた女の力になれるんだぜ?
それを誇らしく思わない男なんて居ないだろ。
もちろん、ただ見てるだけに甘んじずに、お仕事の色んなサポート業務を全て受け持つ為に色々勉強したりした。
もっと、アルの役に立ちたかったから。
彼女の喜ぶ顔を見るのが、俺の幸せだから。
ああ……今日、彼女は何を造るのだろうか?
期待を込めて見守る俺の視線を受けながら、彼女は部屋の中央にあるコンソールの前にたどり着く。

「じゃあ、始めるね。
“Hello, Polyphemus. I'm Nobody”」

彼女の流暢な英語による音声パスワードを受けて『鍛冶場』に火が灯り始める。
ゴゥン……と音を立てて、アルの眼前の円形の床が開いていく。
その穴から、大きさの違う幾重もの金属製リングが積層的に重なった構造物が上昇してくる。
それの見た目は天球儀に近かった。
リングが一切重ならずに様々な方向に回転しているところもそっくりだ。
次いで、コンソールに彼女が触れると、ホログラム画像が部屋の至るところに出てくる。
そこに書いてある文字は、俺には読めない。
彼女の故郷の異世界の言語らしいが、仮に読めたとしても俺にはちんぷんかんぷんだろう。
何でもここに書いてある事は、『巨人』という種族にしか理解・実践できない鍛治技術の知識らしいからだ。
その内、一際大きなホログラム画像に写っている金色の文字が、アルの眼前に飛んでくる。
デカい文字だ。
アルの身長よりも遥かに大きく、厳めしい形の文字。
字の形を言語化するなら、西洋の剣を漢字の部首の「凵」で覆った形といったところか。
ゆっくりと明滅するその文字に向かって、アルが右手をかざし

「Adjust. Awaken, Hephaestus's hammer.」

と呟くと、文字がパァンッと弾けて光の粒になる。
その粒子は、アルのかざした右手と両脚に集まり出し、一際大きな光を放ち━━巨大な槌と、足鎧と化していた。
全長2mに迫るであろう巨大な金色のハンマーと、両足のつま先の下部に“ペダル”のような物が備えつけられた足鎧。
あれこそが、ヘパイストスの勇者であるアルに授けられた神器“ヘパイストスの槌”であり、彼女が最も頼りにする仕事道具なのだ。

「よーし、今日もお仕事がんばるぞ!
私のキュートでかっこいいお仕事ぶり、良く見ててねダーリン
#10084;
#65039;」

「ああ、ずっと見てるよ、君の事を。
アルはいつでもキュートでかっこいいし、俺の自慢のお嫁さんだ。
頑張ってお仕事早く終わらせて、たくさんえっちしようね。
愛してるよ!」

「わっ……
#10084;
#65039;
そこまでストレートに言われると、流石の私も照れるなー……
#10084;
#65039;
ダーリンはほんとに素直だね。
そういうとこにねー、メロメロになっちゃうのが私なんだなー
#10084;
#65039;」

頬を染めてにっこり笑うアル。
ああ……俺の嫁は本っっっっ当に素敵な女の子だな!
彼女の喜びは、俺の喜び。
彼女が笑ってくれたら、それだけで俺はずっと幸せなんだ。
幸福感に満たされている俺に投げキッスして、アルはいよいよ「鍛造」を始める。
━━彼女の表情が、一瞬にして切り替わる。
恋する女の子の顔から、プロの鍛治師へと。
空気が張り詰め、俺も姿勢を正してしまう。
彼女の仕事を見守るという務めの為にも、ここからは瞬きさえ許されない。
しっかりと見届けよう、彼女のお仕事を。

    ◇

ハンマーの柄をしっかりと両手で持ち、脚を肩幅に開き右足のペダルを軽く踏み込むアル。
その動作に合わせて、彼女の眼前のコンソールがガシャガシャと音を立てて変形。
「金床」の形になったコンソールに周囲のホログラムから様々な文字が飛んできて、奇妙な幾何学模様を形成する。
それを真剣な眼差しでしっかりと見据えながら、今度は左足のペダルを思いっきり踏み込むアル。
瞬間的に模様が赤熱化したように“燃え盛る”のを見届けると、ハンマーを両手で大きく振りかぶり……文
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