First penguin girl

━━そうだ、釣りに行こう。
たまの休日、無駄に早起きしてしまった俺は突然そんな事を思い立った。
最近スーパーで魚高いし、長い間魚をまともに食べてないし……
何より最近の休日に何もしてないし、何かしなければ! という良く分からない焦りからも脱却したい。
……よし!
そうと決まれば迷いなし!
俺は部屋の片隅に置きっぱなしにしてたフィッシングバッグから釣り竿を取り出して、状態などを軽くチェック。
使用に問題ない事を確認後、汚れても構わない服装に着替え、水氷を入れたクーラーボックスを引っ提げて車で出発!
足りない諸々の道具などは24時間オープンの釣具屋さんで買い揃えて、店員さんオススメの釣り場である穴場の埠頭に到着!
埠頭からの景観は、丁度日の出と重なって水平線から昇る朝陽が幻想的。
日常の喧騒から離れたという実感が、俺の心を満たしていく。
頬を撫でる潮風の香りと、埠頭に当たる波の水音は、雄大な自然の中に自分がいるという事を感じさせてくれる。
家で寝てるだけでは決して味わえない体験ができて、正直これだけで来てよかったと思えるぜ……
久しぶりに充実した休日になりそうで、テンション上がってきた!
この勢いなら釣果も期待できそうだなぁ。
俺は鼻歌混じりで、いそいそと釣りの準備を始めたのだった……

    ◇

さてと、今回挑戦するのはズバリ『イワシのサビキ釣り』!
釣具屋さんの店員曰く、初心者でも海釣りの醍醐味を味わえるとの事なのでチョイスした。
2ヶ月ほど前に釣り好きの友人に誘われて、一緒に海釣りに連れて行ったもらった時(実は家にあった釣り竿とクーラーボックスもこの際に買った)に、よせば良いのに「真鯛釣りたい」などと無謀な事言って、結果丸坊主ですごすごと帰宅するハメになったという苦い経験から学びを得た俺は、無理せず入門向けの釣り方から試してみる事にしたのだ。
入門書とスマホでサビキ仕掛けのやり方を見ながら、竿の準備が完了。
早速仕掛けを海中に投入!
サビキ釣りの時は静かに投入するのがコツなのだとか。
釣りって、何となく仕掛けを海に向かって勢いよく放るイメージがあったんだけどな。
奥が深いぜ、釣り。
この程度の認識だったから前回は惨憺たる結果に終わったのだが……
でも今回の俺は違うぜ!
イワシ釣りまくって食費浮かせたる!
冷静に考えるとこの釣り道具とか用意するコストの方がずっと高いんだけども、それはそれ。
人間とは、道理だけで満たされる生き物ではないのだ。
……などと、益体もない事を考えていると、釣り竿の先にブルブルとした振動が!
おおっ
#8265;
#65038;
これが俗に言う「アタリ」というヤツか
#8265;
#65038;
リールを回して仕掛けを引き上げると……
やったぜ、魚が全部のサビキに掛かってる!
入れ食いだぜ、ヒャッホー!
海に背を向けサビキから魚を外し、せっせとクーラーボックスに移していると『バシャッ! バシャンッ!』と激しい水音が背後から響く。
んっ……?
何の音だ?
先程釣り竿を持って立っていた場所に戻って、海を覗き込み━━ギョッとした。
そこに、めちゃくちゃデカい魚影があったからだ。
……いや、ほんとに魚かアレ?
あんなデカい魚がいる筈ない。
ゴクリと生唾を飲み込む。
浮かれてた気分が、一気に冷める。
得体の知れない存在を目にした時、人は立ちすくんでしまう物だと。
身をもって実感してる俺の目の前で、その影が妖しく煌めく。
ギラリと発光したソレが『両目』だと認識した、次の瞬間━━

ザバァァァァッ!!

と水しぶきを上げて、影が飛び出してくる!

「ひぃっ
#8265;
#65038;」

情けない悲鳴を上げて、尻餅をついた俺の眼前にその影は降り立つ。
『足』は、黄色かった。
三叉状になったソレで、コンクリートの地面をしっかりと踏みしめている。
『脚』は白かった。
海水に濡れ、朝陽を受けて煌めく色合いはどこか眩しくて、短いソレはとても柔らかそうなマシュマロを想起させた。
『胴体』は黒かった。
黒光りする体表を水滴が滑り落ちる様子は、その表面が強い撥水性を有している事を示していた。
体幹中央には白いラインが縦一直線に走っている。
三角形が複数並んで構成されたそのラインは、見てると不安になってくる。
まるで、獣が牙を剥き出しにしてるのに、その口を閉じている様で。
『腕』は……いや、あれは腕と言って良いのか?
手も指も見当たらない、平べったい板の様な形状。
ボートのオールを彷彿とさせるソレの色は面によって色が違う。
こちらに見せている面は白いが、チラリと見える後ろ側は黒く見える。
『頭部』は一際異形だった。
水中で光っていた目は瞳の中心に白い×印があって不気味だし、目と目の間には黄色い突起━━ああ、きっとアレはクチバシ
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6 7]
[7]TOP
[0]投票 [*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33