休日の公園、ベンチに座って一息つく。
慣れないウォーキングなんぞしてみた所、案の定足の筋肉が悲鳴を上げたのだ。
……全く運動不足にも程がある。
まさか5kmも離れてない場所で限界を迎えるとは。
タオルで額の汗を拭いながら、公園の中を見る。
ボール遊びに戯れる男の子たち、世間話に花を咲かせる子育て中の母親たち。
いつからだろう、そんな光景に疎外感を感じる様になったのは。
まるで自分だけが時の流れに取り残された様な……
もちろんそれは錯覚だ。
残酷な程に流れ、過ぎ去っていく物なのだ、時間ってヤツは。
トイレで用を足し、手を洗うついでに顔も洗う。
運動で火照った顔に冷たい水が心地よい。
鏡に写った自分を改めて見る。
数年前に比べると明らかに太った。
腹は出っ張り、顎も二重顎になりつつある。
いわゆる中年太りというやつだろう。
髪の生え際もじわじわと後退している。
親父も毛が薄かったので、俺もいずれは……と思っていたが、その時が来たと言う事だろう。
大学を卒業して、社会人になりそこからはあっという間だった。
仕事して家に帰り、飯を食い風呂入ってマスかいて寝る。
ひたすらそのルーチンワークの繰り返しだった。
20代の頃はそれでも良かった。
同期が結婚したり、夢の実現の為に努力している中、いつか俺にも転機が訪れ、人生が大きく動くに違いない。
そんな風に気楽に考えていた。
結論から言うとそんな物無かった。
気がつくとアラフォー、挙句の果てに童貞。
勤め先の健康診断でBMIとコレステロールがどうのこうのと言われ、渋々運動せねばならなくなった中年。
それが俺、里口 省吾(さとぐち しょうご)だ。
夢も無く、大切な人も居ない。
そんな奴が適当に生きてきたツケが回ってきた。
それだけの話だ。
……まあ悲観的になっても仕方ない。
世の中には俺なんかより、もっと悲惨な境遇だったり、もっと追い詰められて日常生活を送る事さえ困難な人だって居る。
そんな人達に比べれば、自分は遥かに恵まれていると言える。
どうあれ五体満足で、普通に暮らせているのだから。
ベンチのあった場所に戻って来ると、1人の女の子が腰掛けていた。
特に何をするでもなく、足をブラブラさせながら空を見ていた。
コスプレか何かなのか、派手な衣装に魔女が被る様な帽子を被っている。
本当はもう少し休憩したかったが、ベンチに先客がいるのなら仕方がない。
踵を返して立ち去ろうとした時、強い風が吹いた。
その風で女の子の帽子が飛ばされ、自分の方へ飛んでくる。
丁度頭上を通り過ぎる瞬間、俺は咄嗟にジャンプして手を伸ばす。
パシッ!
運良く帽子をキャッチできた。
女の子が駆け寄って来る。
「あのっ、助かりました! ありがとうございます!」
彼女はペコリと頭を下げてお礼を言う。
礼儀正しい子だ。
「遠くまで飛ばされなくて良かったね。ほら……」
女の子に帽子を手渡す。
彼女は俺の手を両手でギュッと握ると、そのまま俺の事をジィッ……と見つめてくる。
……しばらくそのまま見つめ合う。
近くで見て分かったが、とても可愛い子だ。
金髪に紫色の瞳、透き通る様な白い肌、将来凄い美人になるだろうなこの子……
「あの……私の名前エミリアって言います。
良ければ貴方の名前、教えてもらって良いですか……?」
「えっ……あ、ああ俺の名前は省吾、里口 省吾って言うんだけど……」
エミリア……名前と容姿から見て外国人だろう。
彼女は手を離し、帽子を目深に被る。
「ショウゴ、お兄さん……やっと私にも……エヘヘ……
#9829;」
女の子は小声で何か呟くと、モジモジと恥ずかしがる様な仕草をしている。
「……じゃあ、俺はこれで」
「あっ、ちょっと待ってください!」
立ち去ろうとすると、呼び止められてしまった。
「あのっ、私ちゃんとお礼がしたくて……!
お兄さんさえ良ければ、今から私の家に来てくれませんか?
お茶くらいならお出しできますから!」
「えっ、でも……」
正直困惑した。
そんなに大した事してないのに、お礼って言われても……
ましてや知らない男を家に入れるなんて、どう考えても不用心過ぎる。
この子のご両親だって、許可しないだろう。
躊躇している俺を見て、彼女の表情がみるみる曇っていく。
「あの……やっぱりご迷惑でしょうか……?
そうですよね、お兄さんにもご都合が有りますよね……」
上目遣いで俺を見上げる瞳には、うっすらと涙が溜まっている。
ぐっ、何だこの罪悪感は……!
「わ、分かったよ。君の言う通りにするから……!
だから泣かないで? ね?」
しゃがみ込み、彼女の頭を撫でながら慰める。
俺の言葉を聞いた彼女の表情は、パァァッと明るくなる。
「本当ですか
#8265;
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